夕闇に搗色が滲む―番外編― あとがきでぼそっと言っていたルークがブタザルと呼ぶ話。 ミュウを見て苛々しています。 ―――――――――――――――――――――――――――――― ティアは口うるさいやつだ。 足元をうろちょろするブタザルを俺がちょっと蹴っただけで血相を変えて怒鳴ってくる。 別にわざとやった訳じゃねえ。 ただブタザルがみゅーみゅーうるせーからちょっと足蹴しちまっただけだ。 本気で蹴った訳じゃねえし、ブタザルだって怪我してねえ。 なのにティアの奴、あのブタザルにファーストエイドまで掛けて、俺を睨んできやがった。 大体ブタザルがみゅーみゅーうるさいのがわりぃんだ。俺は悪くねえ。 「ご主人様、待って下さいですの!」 「……」 こいつはすぐに俺の足もとに駆け寄ってくる。 いい加減それにうんざりして、俺は眉を思いっきり寄せてやった。 だけどブタザルは一向に気付かなくて、みゅーみゅーみゅーみゅー泣き喚く。 「だぁー!!うるせえっての!少しは黙って歩けねえのかよ!?」 「…ルーク!」 頭をかきむしって怒鳴った俺を咎めるようにティアがミュウの前に出た。 本当にうんざりする。ティアはまた俺を叱るつもりだ。 口うるさいのはナタリアだけで十分だっつーの。 「あなた、ミュウをいじめてそんなに楽しいの?…こんなに怯えて可哀想じゃない」 「……ブタザルがうるせえからわりぃんだ!大体、なんで俺の後ろ付いてくるんだよ?それで前蹴飛ばしたの忘れたのか!?」 俺はブタザルに声を張った。 ブタザルはティアの腕の中で、俺を見てみゅううと耳を垂らす。 「ボクはご主人様にお仕えすると言ったですの。だから、ご主人様についていなくちゃいけないですの」 「ミュウ!あなた、偉いわ…!」 ティアがミュウを抱きしめて、撫で回す。 どうやらすっかり俺を叱ることを忘れちまってるらしい。 ティアって、なんかミュウのことを異常なほど褒めるんだよなー。何がいいんだ? 俺が横目でティアたちを見ていると、イオンが青い顔をしていた。 俺は少し驚いて、イオンに歩み寄る。 「おい、イオン。お前、顔色悪いぞ?大丈夫なのか?」 「ええ…。大丈夫です。それより早くセントビナーに行かなければ…」 俺たちは今、セントビナーに向かっている。 そこでアニスに合流するんだと、陰険眼鏡のジェイドがそう言っていた。 そのジェイドは封印術とかのせいで力が弱くなったとか言ってたけど、全然そんな素振りはねえ。 エンゲーブで合った頃と同じで、涼しい顔してやがる。 「イオン様。ルークの言う通りです。あなたの顔色は悪い。少し、お休みになられた方がよろしいのでは?」 「けど、あともう少しですし…、大丈夫ですよ」 俺の視線に気づいたジェイドは、イオンを気遣って見せた。 だけど、イオンは頑なだ。ホントこいつって、すぐ無茶しやがる。 「んな青白い顔して、ぶっ倒れてもらった方が困るんだよ。休めよ」 「ルーク、そんな言い方はないでしょう?―イオン様。体調が悪いのなら無理をなさらないで下さい」 俺がおざなりに言うと、ティアが俺を睨んですぐにイオンを心配して見た。 イオンはティアから言われて漸く休むことを承諾して頷く。 その場で腰をおろせるような場所を適当に見繕って、腰掛ける。 俺はその場に座り込んで、ティアはイオンを気遣っていた。 ティアはそういう優しい顔が出来るっていうのに俺には怒ってばっかだ。 ホント、うんざりする。どうして俺の周りにいる奴は口うるさい奴ばっかなんだろう。 ナタリアは俺を見た途端、説教魔人になる。毎日毎日、耳にタコが出来るくらい同じことを言って怒鳴ってくるんだ。 やれ勉強しろだの、やれレッスンを怠るなだの、やれ講師の人から逃げるだの、本っ当にうんざりだ。 そんなのは俺の勝手だ。 俺がそういう態度を見せると、ナタリアは決まって「昔のあなたはそのような方ではなかったですわ」って言ってくる。 だから俺もつい、腹が立って勉強しようって言ったナタリアの手を引っ叩いたんだ。 ああ、思い出しただけでも胸糞わりぃ。…別にそんな顔させるつもりじゃなかった。 あんなにナタリアが悲しそうな顔するなんて、思わなかったんだ。 「ルーク。ティアの言うことは気にしないで下さい。彼女の立場上、仕方がないことなんです」 「…別に気にしてねえよ」 いつの間にか思考に沈んでいた俺を、今度はイオンが心配した様子で見ていた。 イオンに心配されるなんて、情けねえ。俺は気まずさと、なんとなくアニスのことが気になったからイオンに訊ねることにした。 「そういやさ、アニスはタルタロスから落ちたんだろ?本当に大丈夫なのか?」 「ええ、アニスですから」 イオンは迷いなく、そう答えた。 俺は少し眉を顰める。イオンはアニスのこと心配じゃねえのか? 「結構な高さから落ちたみてーだったけど」 「アニスですから大丈夫ですよ」 俺の言葉に答えたのはジェイドだった。 ジェイドは平然としてて、嘘だか本当なのか分からない。 もしかしたら俺が知らないだけで、外の世界はこれが普通なのかもしれねえな。 俺はそう割り切って、東南にあるというセントビナーの方角を見る。 まだ街も何も見えてこないけど、一体どんな街なんだろう。 要塞都市っていうくらいだから、エンゲーブみたいに小屋に毛が生えるような建物じゃねえ筈だ。 俺がわくわくしていると、例によってあのブタザルの声が響いてくる。 「ご主人様、何を見ているですの?空を見ているですの?空は青くてとっても綺麗ですの」 「誰も、んなの見てねーよ」 空、という言葉に俺はつい気を取られて、ブタザルに腹を立てるのを忘れた。 そういや、こんな広い青空を見るのは初めてだ。 いつも屋敷から空なんて腐るほど見て来たけど、外で見るとまた違うことに気付いた。 こんな広い平原から見ると、空がどれだけ広いのかよく分かる。 俺は真っ青な空を見て、なんだかその色をどこかで見たような気がした。 一体どこで見たんだ? 俺はふとあの時の男を思い出した。そういえばあいつの目は青かった。 その青と今の青空はびっくりするくらい似てて、そう考える俺をブタザルがぐいぐい引っ張ってきた。 腹が立ったけど、またティアに叱られるのは癪だ。 取り敢えず、俺は返事をしないのも気が引けて、ブタザルを見下ろした。 「なんだよ?」 「ご主人様、青い空を見ているとお日様がぽかぽかして気持ちいいですの。なんだかボクとっても眠たくなってきたですの」 やっぱこいつはむかつく。ブタザルは本当に眠たいらしく、船を漕いでやがる。 つーか、そんなことを言うためだけに俺に声をかけて、俺の思考を止めてきたと考えただけでムカムカしてくる。 「このブーターザールぅううう!」 「ルーク、何やってるの!?」 俺は腹が立ってミュウの耳をこれでもかってぐらい引っ張ってやった。 予想通りティアの奴が怒ったけど、知るもんか。 ブタザルがうぜーのがいけねえんだ。 あとがき こんな感じで終わります。 別にこれ普通にShortでもよかったようなと書いている時に思ったんですけど、ガイが見事なまでにいないので諦めました。 入れようと思えば入れれると思うんですけど、元々番外編のために書いたのでこれにします。 長編を見てない方にとってはなんのこっちゃとなっても困るので、これくらい当たり障りない話を目指しました。 けど本人がいるのに空とガイを見比べるルークも惜しい。ちらちらガイの顔見るルーク可愛い。視線に気づいたガイがにやにやしたら…! でも、元々番外編のつもりだったんだしと自分に言い聞かせました。酷い迷い癖です。 |