障害
ルークたちはアルビオールに乗って、シェリダンを出発した。 出発というよりは、マルクト人がいると誰かから通報されて、捕まりそうになってシェリダンを逃れながらの出発だった。 そうしてルークは初めての空を堪能する暇もなく、セントビナーに降り立った。 セントビナーの住民たちはアルビオールの存在に酷く驚き、そこにいた老マクガヴァンも目を丸くしていた。 残っていた住民たちをアルビオールに収納すると、セントビナーの崩落が始まった。 紫の海の上に落ちた大地は、辛うじてまだ浮き上がっている。 マクガヴァンは、自分が住んでいたセントビナーを見て小さく呟いた。 「そうか……。これはホドの復讐なんじゃな」 ルークはそれが聞こえていたが、遣る瀬無い気持ちが大きく、なんとしてもあの大地を救いたいと思っていた。 またアクゼリュスのように大地を沈みゆくのを見ているしかないのか。 「……本当になんともならないのかよ」 「住む所がなくなるのは可哀想ですの」 ルークの言葉に、ミュウも小さく耳を垂らした。 アニスはそんなことを言われても何も思いつかないと、首を振る。 そしてルークはセフィロトは、と解決の糸口を見出した。 しかしティアはパッセージリングの使い方が分からない以上無理だという。 ルークはそれでも焦った様子だった。 「じゃあ師匠を問い詰めて……!」 「…ルーク、それは無理ですわ」 「あなたの気持ちも分か」 「分かんねーよ!ティアにも、みんなにも!」 ルークはティアの声を遮り、怒鳴っていた。ティアはそれに驚いて茫然と名を呼ぶ。 「ルーク……」 「分かんねぇって! アクゼリュスを滅ぼしたのは俺なんだからさ! でも、だから何とかしてーんだよ! こんなことじゃ罪滅ぼしにならないってことぐらい分かってっけど、せめてここの街ぐらい……!」 「ルーク! いい加減にしなさい。焦るだけでは何も出来ませんよ」 ジェイドは喚くルークに大声を上げた。 ルークはやっと気付いた様子で黙り、ジェイドは静かに告げた。 「とりあえずユリアシティに行きましょう。彼らはセフィロトについて我々より詳しい。セントビナーは崩落しないという預言が狂った今なら……」 「そうだわ。今ならお祖父様も力を貸してくれるかもしれない」 ティアはジェイドの言葉に同意し、ジェイドはルークに目を向けた。 「それとルーク。先程のあれは、まるで駄々っ子ですよ。ここにいるみんなだって、セントビナーを救いたいんです」 「……ごめん……。そうだよな……」 ルークは顔を俯けて謝った。 ルークは助けたいという気持ちが溢れすぎて、視界が狭まっていたと自覚して、仲間に申し訳なく思う。 仲間はそれを気にするな、といいルークは胸の重りが少し軽くなった気がした。 ユリアシティに着くと、マクガヴァンや住民がアルビオールから下りていく。 そして、セントビナーが崩落したと分かったテオドーロはその住民たちを受け入れた。 ルークは暗い面持ちでそれを見ていると、マクガヴァンがルークに振り返り、気落ちするなよと告げた。 最初は驚いたルークだったが、ジェイドは滅多な事で人を叱ったりしないと彼は言った。 ジェイドはマクガヴァンに声をかけたが、マクガヴァンはルークを慰める。 ルークはジェイドなりに自分に気遣ってくれていたのだと思うと、また胸が温かくなった。 自分ばっかりが焦って、周りに目を向けていなかった。 もっと心に余裕を持たせなければとルークは思う。 そうしてセントビナーが落ちた今、テオドーロは協力的だった。 セントビナーから東に行ったところにシュレーの丘があり、パッセージリングを起動させればマントル状の紫の海にも沈まないだろうとのことだった。 ルークは早速仲間を連れてそちらに向かう。 シュレーの丘でパッセージリングのある場所までルークたちはたどり着いた。 しかし操作が分からず、皆で首を傾げあっているとイオンが口にする。 「……おかしい。これはユリア式封咒が解呪されていません」 「どういうことでしょう。グランツ謡将はこれを操作したのでは……」 イオンの言葉にジェイドが訝しい顔をし、アニスが声を上げる。 「え〜、ここまで来て無駄足ってことですかぁ?」 「…いや」 そう答えたのはガイだった。仲間たちはガイを注目する。 そういえば前もアニスが文句を垂れた時にガイは無駄足ではないと否定した。 今回もまたそう言うのだろうか。 けれどどうやってと思っていると、ガイがリングの正面にある細長い棒状のものに歩み寄った。 「ティア。この前に立ってみてくれないか」 「……?いいけど」 ガイにそう言われ、ティアはその前に立つ。 すると棒状のものが開き、本のような形となる。 それと同時にティアは身体の中に何かが入りこむのを感じた。 これは第七音素だ。 ティアが身構える横で、仲間たちはパッセージリングの上空に何か浮かび上がるのを見た。 「ティアに反応した?これがユリア式封咒ですか?警告……と出ていますね」 「……分かりません。でも確かに今は解呪されています。とにかくこれで制御できますね」 イオンはパッセージリングを確認してそう告げた。ジェイドはガイに目を向ける。 「ガイ。あなたはなぜティアに反応したか知っているのでしょう。どこでそれを知ったんです?」 「…」 ガイは黙っている。 答えないガイにアニスが不審な目をガイに向け、ルークはガイに訊ねた。 「教えてくれよ、ガイ。どうしてティアに反応したんだ?」 「一体どういう仕組みになっているんですの?」 二人から声をかけられ、ガイはやっと重たい口を開いた。 「彼女の譜歌は、ユリアの譜歌だということは知っているか?」 「…ええ、知っていますよ」 フーブラス川を越える時に、確かにティアはそれを認めた。 ルークはそれを思い出し、それを聞いていなかったアニスやナタリアはそうだったのかと驚く。 「では、彼女がユリア・ジュエの直系だということも知っているか?」 仲間たちはそれに驚いた。ティアもそれに驚いて、訥々と口にする。 「確かに兄さんから血の繋がりがあるとは聞いていたけど…、そんなまさか…」 「どうしてあなたがそんなことを知っているんですか?」 これは全く和平には関係ない情報だ。 やっとガイの企みの片鱗に触れられたようだがこれもまだごく一部なのだろう。 ジェイドは詰問を許さない様子でガイを見ると、彼は言う。 「ヴァンの本当の名は、ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデという。フェンデ家は代々ガルディオス家に仕えている。つまりヴァンは元は俺の従者だった」 「ヴァンデスデルカ…、だからあなたは知っていたんですね」 ジェイドはホドで擬似超振動を起こした子供の名前を思い出していた。 当時十一歳で装置に繋がれたその子供がまさか生きているとは思ってもいなかった。 仲間たちは訳のわからないことを言ったジェイドに怪訝な顔つきだ。 「どういうことですの?」 「彼女とヴァンはユリアの血筋であり、このパッセージリングを起動するにはユリアの血縁者でなくてはならない。ティアとヴァンだけが、このパッセージリングを操れるといっても過言ではない」 ガイは起動した理由を述べた。それは分かったが、ガイはジェイドの事については答えていない。 しかし誰もがガイの中に疑念を抱いていた。それは無論、ヴァンのことだった。 「ガイは…ヴァン師匠のこと、知ってるのか?」 「…知っている。奴が外殻大地を全て魔界に落とし、レプリカの大地を作ろうとしていることもな」 突然、ヴァンの計画の全容を言われて、仲間たちは理解できなかった。 一体彼が何を言っているのか、アニスは頭が追いついていかない。 辛うじて気になったことを口にする。 「レプリカの大地って…何?どういうこと?」 「ヴァンは預言を憎んでいる。預言を完全に消すためには地上にいるオリジナルを全て殺し、レプリカと挿げ替えることを考えた。そうすることで、奴は預言から解放されると信じている」 だからヴァンはあれほどまでにフォミクリーの技術を使って、レプリカの研究をしていたのだ。 アッシュと回った地表の件も、その計画の内の微々たるもので、氷山の一角に過ぎない。 「それが本当なら、ヴァン師匠は世界を滅ぼうそうとしている…?」 「だから両国が手を取り合う必要があるんだ」 ガイが相変わらず淡々とした調子で言った。 しかしルークは自分では抑えきれない激情がわき上がり、ガイの胸倉を掴んでいた。 「だったら、なんですぐにそう言わなかった!?もっと早く言ってくれれば違ったかもしれないだろ!」 「俺も、ヴァンと同じで預言が憎い。ただ道が違うだけだ」 「……どうしてだ…?」 真っ黒な闇のように双眸にルークはゆっくりと手を放す。 どうして預言がガイもヴァンも憎いのかルークには分からなかった。 するとガイが嗤いもせず、冷淡にその問いに答える。 「預言のせいで、罪のない人間が今までも何人も殺されてきた。この世界は、預言に従うことをよしとする。預言で死ぬと詠まれたものは死んで当然の世界だ。ユリア・ジュエはこれを望んだのではないだろう。自分の私欲のために預言を使うことが、俺は正しいとは思わない」 「…」 ルークは黙る。確かにガイの言う通りだ。 ルークはキムラスカに繁栄をもたらすために死亡宣告された。 ルークが死ねばキムラスカには大義名分ができ、キムラスカ側の士気が上がる。 「預言はただの道しるべであり、従うためのものではない。ましてや強要するものではない。預言を残したのはユリアが世界の行く末を憂いた結果ではないのか。だとすれば、今の世界はおかしい。それがユリアの預言が齎した結果ならば、その預言をいい加減唾棄すべきだろう」 ガイは嫌な風習に倣うのはよせといっている。 それがどれだけ建設的な道であるかはルークですら分かった。 自分も預言が間違っているとテオドーロに口にしたのだ。 今まで預言によって無駄な争いを起こし殺してきたことを非難した。 「だが、ヴァンのやり方は許せない。そんなことをせずとも、他に道があるはずだ」 「…そうだな」 ルークはガイの言葉に素直に頷いた。 彼がこんなに真っすぐな考えを、自分と同じ気持ちを持っていたことに驚くが味方がいるというのは心強い。 「私はまだあなたを信じた訳ではありませんが、あなたの行動が大体分かったような気がしますよ」 「わたくしも、あなたのことを見直しましたわ。そこまで民のことを思いやっていましたのね」 ジェイドとナタリアが一先ずはガイのことを信じると言った。 アニスとイオンもそれに頷いて、ルークはセントビナーのことを思い出す。 「それで…これどうやって操作するんだ?」 「俺がやろう」 そう言ってガイが進んで前にやってくる。それにジェイドは意外そうな顔をした。 「おや。あなたは第七音素を扱えないでしょう?」 「扱えなくても、操作は出来る。荒療治だがな」 彼は言うなり、操作盤らしきものに手を触れる。 彼が少し弄っただけで、リングは輝きだし、粒子が溢れ始めた。 「……起動したようです。セフィロトから陸を浮かせるためのセルパーティクルが発生しました」 「それじゃあセントビナーはマントルに沈まないんですね!」 装置の前に立ったまま、ティアが小さく笑って見せた。ルークもその様子に喜ぶ。 仲間もそれに感化されたように喜ぶが、ガイは相変わらず仏頂面だった。 そして上空に現れた図面に何かの文字が浮かぶ。 「これは…いけません。ここのセフィロトはルグニカ平野の全域を支えていると書いてあります!このままではエンゲーブが」 「エンゲーブ、マジヤバじゃないですかぁ!?」 アニスは驚愕し、仲間たちは急いでその場を後にする。 しかし一人遅れたティアにルークは気づいた。 「……ティア。どうかしたか?」 「少し疲れたみたい……。でも平気よ」 ティアの言葉にルークは疑う様子を見せたが、ティアは心配してくれてありがとうというだけだった。 ルークはそれに後ろ髪を引かれる様な何かを感じつつも、その場を後にする。 アルビオールでルグニカ平野に向かうと、すでに戦争が勃発していた。 このままではキムラスカ軍もマルクト軍も双方ともに死んでしまうと顔を青ざめる。 ティアはこれが兄の狙いだったのだと呟いた。 ガイの話にもあったようにヴァンは外殻大地の人間を全て殺そうとしている。 そのためにはこの方法は一番効率の良いやり方だった。 ルークはそれを何としても止めたいと訴え、そうしてまた二手に分かれることになった。 エンゲーブに行くのにはガイとジェイドというのは既に決まっており、カイツールで停戦を呼びかけるのもナタリアというのは決定事項だった。 あとはどういったメンバーを入れようかと悩んだ末、ルークは先程ティアが疲れていた所を思い出し、ルークはエンゲーブに行くことを決めた。 エンゲーブの住民を連れて、ケセドニアに逃げるという案が出た。 それに従うべく、アルビオールを出来得る限り駆使し、残った住民はルーク達と徒歩でケセドニアに向かうことになった。 予想通りの肉体労働に、ルークは息を切らせながらも精一杯頑張る。 ガイは時折それが不安だと思いながらも、口も手も出さなかった。 ほとんどガイのおかげで、住民には死傷者を出すことがないのだが、ルークはその姿に恐れを抱いた。 魔物と対峙するときは何とも思っていなかったのに、敵を、人間を殺すガイの姿は恐ろしかった。 躊躇せず、真っすぐにヒトの心臓を刺し、手足が邪魔であればその手足を切り落とす。 実に残虐かつ合理的な殺し方で、ルークはいつも目を逸らしていた。 「ガイが怖いですか?」 「え…」 ジェイドにそう訊ねられて、ルークの言葉は彷徨った。 ジェイドはその様子を見ると肩を竦める。 「味方のうちは確かに心強いですが、敵に転んだらと思うと厄介な相手ですね」 「…おまえな」 ルークはそんな事を言うジェイドに白い目を向けた。 全くジェイドに仲間意識というのがあるのか時折ルークは不安になってくる。 「彼は人を殺すことを厭いません。ただ自分を生かすための戦いをします。それはある意味賢い戦い方です」 「…そう、だな…」 分かるが、やりたくない。そんな顔が読み取れたジェイドは言う。 「あなたが気に病むことはないのです。全部彼が勝手にやっていることですから」 「…分かってるよ」 でもそれが、自分のせいなんじゃないか。 そうルークは思った。彼の両親が死んだのは自分の父が殺した訳だし、憎いはずがない。 彼は預言を憎んでいるといったが、憎む原因を作ったのは紛れもないファブレだとルークは思っていた。 ジェイドはそれに気付いていながら、それ以上言葉をかけることはなかった。 何故なら、その問題は二人の問題だからだ。 けれどガイがその事を口にするかと言えば、口にしそうにない。彼は内心の思いなんて吐露したことがないのだ。 それはあの小さな頃から一緒だ。実に十六年余り、自分の心を誰にも触れさせない。 だからジェイドはガイが嫌いなのだ。 頑なに殻に閉じこもろうとしているその姿は、自分のようで疎ましい。 ケセドニアに到着すると、住民たちはお礼を述べて別れていく。 死傷者は出ず、負傷者は出てしまったが、皆で生きて通れたことを喜びあう。 そしてルークの背後から、幼馴染の声がした。 「ルーク!」 「ナタリア!?どうしてここに。停戦はどうなったんだよ」 ルークが振り返ると、ナタリアが仲間を連れてルークに歩み寄っていた。 どうやら停戦を頼む相手がケセドニアでモースで会談するためにいなかったためこちらに来たということらしい。 ルークはナタリアたちを連れて、その場に向かったが無駄であった。 モースがナタリアのことを偽姫だと言ったのだ。 その結果、ナタリアの言葉にもルークの崩落するという言葉にも誰も信じようとはしない。 モースはイオンにいい加減戻るように言えば、イオンもダアトに戻ると口にした。 アニスだけはルークのメンバーに残り、イオンはモースに連れて行かれる。 それにルークは戸惑いつつも、ナタリアのことが心配だった。 ナタリアは僅かに放心した様子で、茫然とそこに立ちつくしていた。 ケセドニアのキムラスカ領に入ったあとでもナタリアはいつもの勢いがなかった。 ルークはそれを気遣いつつも、アスターの屋敷に向かう。 そこでエンゲーブの住民たちを受け入れてほしいと頼むためだった。 しかしもうすでにイオンが頼んでいた。 きっとルークたちがキムラスカ領に入るために漆黒の翼にあれやこれやと取引している間に彼はあっさり通ったのだろう。 そしてアスターの口からザオ遺跡とイスパニア半島に亀裂が入っていたことを知らされ、ジェイドは呟いた。 「やれやれ。移動しても残っても、エンゲーブの住民は危険にさらされる運命だった……そういうことですか」 「ノエル……間に合ったかしら」 ティアがアルビオールの操縦者であるノエルのことを思い出す。 そしてアスターに崩落の危険を教えたルークたちはパッセージリングがあるザオ遺跡に向かうことになった。 しかしルークが砂漠への出口を通りかかると声がかかった。 「待ちな」 「お前は、漆黒の翼!」 ルークは先程のやり取りを思い出しながら、ノワールを見た。 ノワールは明らかにけだるそうであり、アニスはかみつく。 「私たちに何の用!?通行料は払わないよ!」 「通行料のことはもういいっていったゲスよ。今回は違うゲス」 ウルシーがアニスに答えた。 「じゃあ何の用なんだよ?」 「アッシュの旦那が、砂漠のオアシスであんたに話があるそうだよ」 「え?」 聞き返すルークにノワールは「じゃあ伝えたからね」といって去って行ってしまう。 一体なんだ、と首を傾げるルークにジェイドは言う。 「取り合えず行ってみてはどうですか?何かアッシュが知っているかもしれません」 「…そうだな」 ルークはジェイドの言葉に従い、オアシスに向かった。 オアシスにある泉の前にアッシュは立っていた。 長そで長ズボンで、黒衣の格好のアッシュはかなり熱そうに見え、よくそんな恰好でいられるなとルークは思う。 「やっと来たか……」 「話ってなんだよ」 ルークがやってくると、アッシュは苦虫を潰した顔で言った。 「何か変わったことは起きてないか?」 「はぁ?」 ルークはアッシュの言葉に眉を顰めた。 変わったことは起きていないかと言われれば、崩落して大変だくらいしかない。 そんな様子を見たアッシュは、ルークから目を外す。 「……そうか」 「アッシュ。何かありましたの?どこか具合が悪いとか」 ナタリアが心配顔で、アッシュの顔を覗く。 アッシュは顔を逸らして別に、とだけ言う。 そして沈黙が落ちる。ガイはそれに耐えかねたように口にした。 「用件が済んだのなら、早くザオ遺跡に行くべきだ」 「…」 アッシュはそこでやっとガイの存在に気付いたようだった。 ぎろりとアッシュがガイを睨んでいると、それに気付いたアニスが茶化す。 「どうしたの、アッシュ?やっぱりガルディオス伯爵がナタリアの側にいるのは怖いの〜?」 「ガルディオスだと?!」 アッシュは目を見開き、ガイを睨む。 こいつがあのガルディオス。それなら前にやった行為もなんとなく分かる。 彼はアッシュをファブレ公爵家の御子息と嗤ったのだ。 ガイがガルディオスだと知らなかった時は何故知っているものかと思ったが、ガルディオス相手ならなんとなくわかる。 ガルディオスがファブレを恨んでいるのは有名な話だ。 その息子であるアッシュを恨むのは当然である。 何故自分がその子供だとガイが分かったのか不思議ではあるが、彼は分かっているからこそ自分を殴り、変な腕輪をつけた。 つまりこれは復讐相手へのささやかな宣戦布告というものなのだろう。アッシュはそう解釈した。 となると、ここで彼に腕輪を外せなどアッシュは口に出来る筈もなく、ただ視界に入れるのさえ不快になる。 「アッシュ!どこへ行くのですか」 「俺はヴァンの動向を探る。奴が次にどこを落とすつもりなのか、知っておく必要があるだろう」 アッシュはそのまま去っていき、ナタリアはその背中をじっと見つめていた。 ルークはアッシュが去ったあと、結局何の用だったんだと肩を下げた。 そして一向はザオ遺跡にあるセフィロトに行き、ガイが操作をする。 ガイは一体どうしてそんなものを出来るのか分からず、ジェイドはもう一度訊ねた。 「ガイ、どうしてあなたは操作できるんですか?」 「俺では操作できない。ティアの力がなければな」 ガイは分かっていてそう言った。 しかしルークが「そっか。ティアはユリアの血縁だもんな」と納得し、仲間も同意して言ったせいでジェイドは聞く機会を失った。 中々ガイは語ろうとはしない。 それにジェイドは肩を竦めつつ、制御盤に表示された文字に目を止める。 無事に降下した後、ルークたちはアルビオールに乗った。 そしてセフィロトの異常に気付く。 ルークたちが目にした一本のセフィロトは消えかかったり、明るくなったりしている。 それを目にしたジェイドが零した。 「やはりセフィロトが暴走していましたか……。パッセージリングの警告通りだ」 「セフィロトの暴走?」 ジェイドの言葉にアニスが訊ね、ジェイドは答えた。 「ええ。恐らく何らかの影響でセフィロトが暴走し、ツリーが機能不全に陥っているのでしょう。最近地震が多いのも、崩落のせいだけではなかったんですよ」 「待って下さい! ツリーが機能不全になったら、外殻大地はまさか……」 ティアが顔を青ざめる。ジェイドは静かに続けた。 「制御盤に、『パッセージリングが耐用限界に到達』と出ていました。セフィロトが暴走した為でしょう。パッセージリングが壊れれば、ツリーも消えて、外殻は落ちます。そう遠くない未来にね」 「マジかよ! ユリアシティの奴らはそのことを知ってるのか?」 「お祖父様は、これ以上外殻は落ちないって言ってたもの……。知らないんだわ」 誰もが表情を暗くし、ルークが預言に詠まれていないのかと口にする。 そこでイオンなら最高機密である預言を調べられるだろうとアニスが口にし、仲間たちはダアトに向かうと決めた。 ガイはその様子を横目で見て、さてどうしたものかと隠微な顔をする。 ダアトに行けば、待っているのはルークとナタリアの処刑だ。 モースは仲間たちを捕え、キムラスカに連行する。 自分だけでも別行動を取るか、アッシュに助けてもらうのか。ガイはその二択、どちらを選ぶのか考えた。 あとがき なんだかちっともガイルクしてない気がするんですけどどうなってるんですか(…)。 というかガイってすぐテラ空気になるよね。 会話に入ってくれよガイ! |