闇の現
今回ほど喋れない自分の立場を悔いた事はあるだろうか。 ナタリアが暗い表情をすれば、ルークもつられたように顔を暗くする。 ガイの記憶の中では二人は幼馴染だ。当然のことながら幼馴染の沈んだ様子を見れば励ましたくなる。 だが、ルークを救うと誓った以上それはできない。 やってしまったら最後、ルークの死を意味する。 何のために今までそうしてきたんだ、とガイは何度も自分に声を言い聞かせた。 しかし幼馴染は顔を暗くしたままであり、特にルークは注意力散漫になっていた。 ナタリアのことを気にしているからといっても、それにしても酷過ぎる。 せめてルークに分担された荷物を持ってやりたいとさえ思うが、自分がここでルークに声をかければジェイドがルークに優しいんですねえといって臭いを嗅ぎ付けてくるだろう。 ルークは先程から何度もぬかるんだ地面に足を取られては手をついて荷物は水に浸かっていた。 最初こそは注意していたアニスもいつの間にやら注意をやめている。 そんな濡れた荷物を今更俺が持つといっては尚更おかしいだろう。 ガイは気を揉みつつも、何事もないように装った。 そうしてもうじき出口が見えてきた。これで少しはましになるだろう。 ガイが内心安堵した時のことだった。 あのベヒモスがまた背後から追いかけてきたのだ。 仲間はベヒモスを見たら走るというのが板についてきていたのだが、ルークの足が縺(もつ)れる。 手をついたルークにベヒモスは容赦なく猛進し続けた。 仲間が息をのみ、ガイは走る。 ぬかるみのせいでずぼずぼとブーツに嫌な感触が広がるが、構わない。 「ルーク!」 ガイがベヒモスに切りかかる。その間にルークは体勢を整えた。 前足を突き刺されたベヒモスから唸り声が上がる。 「…ガイ…俺」 「早く逃げろ!」 ガイに怒鳴られ、ルークは慌てて駆けていく。ガイはベヒモスと対峙し、互いに間を取っていた。 そして仲間たちは安全区域にまで逃げ込んでいたため、ルークをその場に来るようにと声をかける。 ガイもベヒモスからじりじりと距離を取り、走りだしていた。 しかしベヒモスに気を取られて通常の魔物のことを誰もが頭から抜け落ちていた。 水の中から突如出てきた大きな蛙であるパプゲコにルークはまともに攻撃を食らう。 目の前でルークが崩れるのが見え、ガイはそちらへ走り出す。 だがベヒモスもガイを追っていた。ジェイドは譜術で何とか止めようと試みるがアニスが叫ぶ。 「危ない!!」 「ガイ、後ろ!」 ティアが注意を呼び掛けるが、ルークの体を起こそうとしたガイは背後に迫るベヒモスを見た。 どう考えても避けられず、ベヒモスの野太い大木のような前足がガイに迫る。 「ぐっ!」 ガイの身体は吹き飛び、意識を失っていたルークも宙に投げ出される。 ルークを両腕に抱えようとした結果、手がふさがっていたガイは痛みを軽減するように咄嗟に受け身を取ったが効果のほどは分からない。 (…ルーク) ガイは飛ばされつつも、ルークの姿を探す。そして眼下には森が目に入る。 イニスタ湿原の出口付近には崖があり、どうやらそこまでぶっ飛んだらしい。 出口はあと目と鼻の先で、仲間との距離は僅かに5m程で、崖までの距離は10mだった。 そう考えるとかなり飛ばされたんだなと思うがガイの意識は遠くなった。 全身が重い。所々、まるで重しをつけたように重たい。 一番痛むのは左肩だ。受け身を取り損ねた結果、ガイは左肩を痛めてしまった。 しかしこのまま寝ている訳にもいかない。ガイは右手で地面をつき、何とか立ちあがった。 どうやら足の骨も手の骨も折れていないらしい。それだけが救いだった。 自分の背丈を優に超える木々に、光を遮るように茂る木の葉によって視界は最悪に等しい。 落ちた後かなり寝てしまったようだ。辛うじて空の色が茜色なのは分かった。 ルークはどこだ。ガイは目を辺りに走らせ、案外すぐにルークを見つけた。 「ルーク!」 「…」 声をかけてもルークは黙したままだった。やけにひんやりとする手はまるで冷たく死を連想させる。 ガイは脈はあるかと手首に指をあてると、辛うじてルークが弱々しい脈を打っていた。 ほっと胸を撫で下ろすと、腕の中のルークが呻く。 「…っ、ここは?」 「イニスタ湿原の近くにある森の中だというのは分かる」 目を開いたルークにほっとしつつ、ガイはルークからそっと身を放した。 ルークはきょろきょろと辺りを見回し、地面に座ったままだ。 「今日は野宿になるだろう。場所を探すぞ」 「…分かった…」 ルークは立ちあがろうとすると、左足ががくりと下がる。ガイはそれを見てすぐに分かった。 「足を痛めたのか?」 「ああ…」 顔を歪めたらしいルークの顔が、日が落ちている所為で全く見えない。 ただ声だけは苦痛を含んでいるので、大体それだけで結構痛いということだけは分かる。 ガイはルークに屈んで見せた。 「乗れ。こんな所で野宿する訳にはいかない」 「…わりぃ」 ルークは少し迷ったが、ガイの背中に乗った。 ガイはルークを背負うと辺りに落ちていた革袋を一つ拾うと、歩いていく。 ずっと無言のまま歩く。 それは場の空気が重いというよりは、自然の流れだった。 それになんだかルークは身体が重い。落ちた衝撃かと思うのだが、意識が朦朧とする。 「今日はここで野宿をする」 ガイが手頃の場所を見つけて、そう口にした。しかしルークは答える元気はなく、黙っている。 ガイは一人で着々と準備を済ませて、焚き火に火をつけた。 その頃にはすっかり夜が更けて、ルークはぼんやりとガイに目を向ける。 「…どうした?」 「……なんでもねーよ」 訊ねたガイにルークは目を逸らす。 本当は身体がだるくて横たわりたいくらいなのだがそうすればガイに迷惑がかかる。 そんな考えからルークは目を逸らしたのだが、ガイにはそれがお見通しだった。 相変わらず分かりやすい嘘だ。ガイはついルークをじっと睨んでいた。 「な、なんだよ?」 視線に気づいたルークの声が僅かに上擦る。こちらに怯えて、距離を置くような眼だ。 このまま放っておくことはガイは出来ず、ルークに訊ねていた。 「身体がだるいんじゃないのか?敵からまともに攻撃を食らっていただろ」 「……………別に」 長い沈黙ののちにルークは嘘をついた。 ガイはあの時のルークも嘘をついた事を思い出す。 結局最終的にばれたが、ガイはずっと思っていた。 (なんで俺には話してくれなかったんだ。俺はそんなにルークにとって頼りないのか?それともどうでもいいのか?) あの不器用な親友はただ仲間から気遣われるのが怖かったのだろう。 それは分かるが、ティアとジェイドはどうなる。 ルークはあの二人にだけは弱音を吐露した。自分には一切しないで、いつも平気な顔をする。 本当は夜中に度々ルークが乖離を起こして恐怖に震えていたのを知っていたのに、ルークがあまりにも知られたくないように振る舞うから見ないふりをしていた。 だがルークがいなくなってからというもの、それは違うと考えるようになってしまった。 (ルークは俺が頼りなかったから話をしなかったんだ。俺じゃなくジェイドとティアを選んだ) あの二人の方が頼りになる。だから自分には話さなかった。 「…ガイ?」 不思議そうにルークがガイに訊ね、それがある日のルークに重なった。 ルークの腕が透けて見えた翌日、ガイはルークに言おうか迷ったのだ。 その時ルークは深刻な顔をした自分に気付き、不安げに見てきた。 ルークを心配させまいとガイは、嘘をついた。 『もうすぐ最後の戦いになる。これで勝たなきゃ、俺たちには明日はないんだと思うと少し不安でな…』 『…珍しいな。ガイがそんなこと言うなんてよ』 俺だって、不安なんだよとガイは使い古された笑顔をルークに向けた。 ルークはその時明らかにほっとしていた。ガイは結局その時言ってやればよかったと後悔したのだ。 憤懣遣る瀬無いこの気持ちは、今のルークへと向いていた。 「お前、嘘ついただろ」 「え?」 ルークは最初誰が言った言葉か分からなかった。 ガイと二人しかいないのにおかしな話だ。だが、ガイの口調は明らかに変わっていた。 それに目つきも、なんだか怒っている。 たき火の明かりによって照らされた横顔はなんだか眉を寄せているように見えた。 「あんな間近で攻撃受けて、昏倒したくせになんともないと思う方がおかしい。本当は身体が辛いんだろ。正直に言え!」 「…ちょっとつれーけど」 ガイにと詰め寄られ、ルークは驚きつつも答えた。 あれ、ガイってこんなのだっけ。こんな風に人の事心配してたことあったか。 ぐるぐるとルークの頭の中でガイという人物はどうだったかと口論する。ルークは動転していた。 ガイはそれを知ってか知らずかルークの腕を掴んだ。 ルークは腕を触れられても、ガイにされるがままされて黙っている。 「怪我はないな…。そういや、パプゲコには毒があったか」 ガイは顎に手を当てて考え込んだ様子だ。ルークはやっとガイがおかしいということに気付く。 「お、おい。お前一体どうしたんだよ?」 「何がだ?」 ガイが逆に不思議そうに訊ねてくる。 ルークは一瞬俺が間違ってるのかと思うが、いいやガイが間違っているんだと言い聞かせた。 「だから、言葉のまんまだよ!なんか、キャラ違わねーか?」 「仲間が怪我したり、体調が悪くなったのを心配するのっておかしくないだろ」 ルークは言葉に詰まった。心配するのは仲間として当然である。 それとも身体がダルいせいでルークには今のガイがやけに親しげに見えるのだろうか。 黙ったルークを見ると、ガイはルークの上着に手をかけた。 「恐らくだが、パプゲコの体液をルークが浴びたから微熱があるんだろう。このままじゃいつか本格的に熱が出るぞ。だから上着とTシャツ脱げよ。着替えの入った袋は運よく一緒に落ちてたからな」 「…え」 ルークはそれにさあっと顔を青くする。服を脱ぐなんてとんでもない。 しかしガイは気づいた様子もなく、ルークの上着のボタンをあっさりと外してしまった。 「ちょっと待てよガイ!俺、脱ぎたくねえ…っつーか!俺、今寒くて服なんて脱ぎたくないんだ!」 「寒かったら焚き火の近くに行けばいいだろ。ほら、さっさと脱げよ。そのままにしとく方が危ないんだぞ」 ガイは親切心でそう言っている。ルークは熱で頭がぼうっとしながらぐるぐると考えた。 しかしガイはルークの上着を剥がしてしまう。ルークは何としても阻止するために暴れ始めた。 「だーかーら!俺は脱ぎたくねえって言ってんだよ、この馬鹿ガイ!」 「はいはい。馬鹿で構わないから駄々をこねないで下さいよ、ルーク坊ちゃん」 ガイはルークの手をあっさりと掴む。 ルークはガイから聞いた使用人口調になぜだか口を噤んでしまう。 ルークは明らかに風邪を引いて熱を出した時のように顔を真っ赤にしていた。 どう考えてもこのままこの服を着ていた方が危険だ。ルークがどんなに嫌がろうと脱がしてやる。 ガイは固い意志のもとルークのTシャツに手をかけた。 相変わらず健康面にあまりよろしくない腹出しTシャツを着ているルークはあっさりと脱がされる。 次に見えるのは素肌かと思いきや、胸部に巻いた包帯だった。ガイはそれを見た途端目の色を変える。 「ルーク、怪我してるのか!?一応包帯を変えておくか…」 すっかりガイは隠したがりのルークと今のルークを同一視している。 ガイが包帯に手をかけ、そして包帯を取ったあと、彼は驚愕した。 目を丸くしたガイなんて、ルークは今まで見たことがなかったが随分と滑稽な顔だ。 しかもガイはルークの視線に気づくまでかなりの時間を要し、目が合うとガイは口を開く。 「……ルーク、女なのか…?」 ごくりと唾を飲んだ様子で、ガイは訊ねた。 ルークはそれを見ると、泣きたいんだか怒りたいんだか、いっそ笑えるんだか分からなくなってガイの胸板をどんどんと殴り始めた。 「このど変態!馬鹿!はげ!何が、女なのか?、だよ!見てわかんねーのか!?お前の目は腐ってるのかっつーの!!」 「…」 ガイは茫然として黙ったままであり、ルークの頬に涙が伝う。それは止まることがない。 次第にルークも殴る力がなくなって、ついには嗚咽を混じって泣いていた。 ガイは革袋から、恐らく自分の替えの服であろう大きなTシャツをルークにかぶせた。 するりと入って、頭だけが出て、手は袖にすら通っていない。 それは随分不格好だったが、ガイが申し訳なさそうに目を落とす。 「すまない…。ルークは女性だったんだな。悪かった。ごめんな、ルーク」 「…」 ガイはそっとルークを抱き寄せる。ルークはなんだかそれに胸が温くなって、目を細めた。 不思議と、ガイが温かく感じる。 いつもは何考えてるのかまるで分からなくて冷たい奴だったのに、今は妙に優しくてそれがくすぐったい。 ルークの涙はいつの間にか止まっていた。 ガイはゆっくり身を放すと、ルークの頭をくしゃりと撫でた。 「袖に腕を通しとけ。俺は夕食を作ってるからな」 ガイはルークに背を向け、革袋に入っている僅かな食料を取り出している。 ルークはガイに言われた通り、袖を通す。 其れを見たガイはシートを引いて毛布を丸めた枕を作ってくれた。 そこに横たわって待ってろ、とガイは告げルークは言われるまま横たわる。 そうして何時間が過ぎただろうか。ルークは幾分か楽になる頃にはガイの夕食が出来ていた。 「こんなもんで悪いが、食べてくれ」 ガイが作ったのはパスタだった。パスタは保存食として重宝するが、ルークは飽き飽きしていた。 どうせ不味いんだろ、とルークが一口食べると目を見開く。 ガイはそれに気付いた様子もなく、ごく普通に食べていた。 嘘だろ、なんで美味いんだよとルークはガイを凝視する。 料理は当番制だったが、今までガイは可もなく不可もなかった。 ここまで美味しくなかったはずなのだ。 「お前の口にはやっぱり合わなかったか?」 「…普通だ」 ここで美味しいというのは悔しすぎて、ルークは顔を逸らしてそう言った。 ガイはそれに可笑しそうに笑みを浮かべる。初めて見るその顔についついルークは目を注いだ。 こんな顔して笑うのか。ルークがじっとガイを見ているとガイは苦笑した。 「あんまり見られると食べにくいんだが…」 「べ、別に見てねーよ!勘違いしてんじゃねー!」 ルークは怒鳴り、ガイに背中を向けた。 ガイはそれを懐かしそうに目を細め、そうかとだけ言った。 ルークは先程の熱などなかったように食欲が進んだ。 やっぱりガイの言う通り服に体液がかかっていた線が濃厚だ。 それを考えるとガイの判断は正しくもあり、ある意味まあ最低だった。 しかしガイには借りがある。今回崖から落ちたのだってルークがドジを踏んだからだ。 それに、ルークはどうしてもガイに言っておきたいことがあった。 「…ガイ。俺の事なんだけどさ、誰にも…言わないでほしいんだ」 「…」 ガイが薪を投げ入れていた手を止めて、ルークに目を移す。 ルークはその目に耐えられず、目を伏せた。 「父上との約束なんだ。母上だって俺のこと知らないし、俺は男じゃなくちゃいけない」 「…なら、条件がある」 そう述べたガイは優しい目をルークに向けていた。 ルークはアニスもこんな感じで条件出されたのかな、と不意に思う。 こんな優しい顔をした相手にそう言われたら、大抵の人は聞いてしまうような様子だった。 「ルークの手首にこの腕輪をつけてもらいたいんだ。勿論、仲間には内緒でな」 「…なんだよ、これ?」 ガイは懐からブレスレットを取りだした。特に何の装飾もない、至ってシンプルな腕輪だ。 「ルークはいつもグローブしてるだろ?その下に腕輪は丁度隠れる。つけるだけなら簡単だろ?」 「そりゃ、いいけど…。たったこれだけでいいのか?」 「ああ、それでいいんだ」 ルークはガイに手を伸ばし、ガイはルークの腕にそれをつけた。 ルークはつけて暫くして、よく考えたらこれすっげー邪魔じゃんと気付いたが、ガイはルークに声をかける。 「ルーク。もう一度念を押すが、それつけてるの仲間にバレるなよ?二人だけの秘密だからな」 「…分かってるっつーの」 二人だけの秘密という響きに、ルークは顔を逸らす。なんだか楽しい気分だ。 そうして、夜は更けていき、ガイとルークは明日に備えて眠った。 ルークが朝、目を覚ますと焚き火を消すガイの姿が目に入った。 ぼうっとした様子で、ルークは身を起こす。 「…ガイ?もう行くのか」 「ああ。ジェイドたちに早く合流しなければならないからな」 ルークはそれに目を見張る。 昨晩は随分と砕けた調子だったのに、今はいつもと同じ様子だ。 目を丸くしたルークにガイは淡々と訊ねる。 「どうした。足が痛むのか?」 「…いや。なんでもねー」 ルークは目を逸らすと、ガイがルークに包帯を手渡した。 ルークはそれを受け取ると、ガイは背中を向けて身支度をし始める。 何かが変だ。 ルークはそう思いつつも自分の手首につけられた腕輪と包帯を見て昨日のことは夢ではないことだけは分かる。 だが、ガイの様子はいつも通りだ。 もしかして、今まで知らなかっただけでガイは二重人格なのか。 ルークはそんな事を考えつつ、渡された包帯を巻いて、服を着替えた。 「おい、ガイ。着替えたぞ」 「…」 ガイはそれを聞くとこちらに振り替えり、ルークのねん挫した足の様子を見た。 赤くはれた足はまだまだ歩くのは無理そうで、ガイがルークを負ぶって歩く。 そうしてガイは再び夜になるとまた親しげな様子で話し、朝になると冷たくなるという状態が三日ばかり続いた。 三日も経てばルークはガイはそういう奴だと解釈し、ねん挫も少しばかりよくなった。 これなら、ゆっくり歩く程度なら問題ない。 四日目にしてようやくガイとルークは森から出れた。すると仲間たちが歩いているのが目に入る。 ガイはルークを背負っていたのを下ろし、ルークはひょこひょことどこか危なっかしい様子で仲間の元へと歩いていく。 「おーい。みんなー!」 「ルーク!」 真っ先にルークの心配をしたのはナタリアで、目に涙を浮かべている。 「良かった。ご無事でしたのね」 「心配したんだからね、ルーク!」 アニスも涙声でルークに言う。 ティアもルークに馬鹿、と言いだす始末で、誰もガイの心配はしていなかった。 それに気付いたルークはガイに目を向け、自然とガイに視線が集まる。 「ナタリア。ルークは左足を挫いている。治癒術をかけてやってくれ」 「あら。それは本当ですの?」 ガイの言葉を受けて、ナタリアはルークの左足にヒールをかける。 ルークは足をとんとんと地面につけてみたりして、治ったことを確かめた。 「すげえ!もう痛くねーぞ」 「ガイはどこも怪我してないの?」 「あれはすごい落ち方でしたね」 ルークの足の治療を見て、ガイを心配したアニスに対し、ジェイドは失笑する。 ガイは表情一つ変えず「ない」とだけ言った。 「早くベルケンドに行くべきだろう」 「…そうだな。アッシュが待ってるかもしれない」 ガイの言葉にルークは頷き、仲間たちに行こうと促す。 ジェイドはそれを見ていつもと変わらない二人を見て残念そうにする。 ガイがルークを助けたのはかなり意外だった。 しかしガイの預言を変える存在としてルークを庇った可能性がある。 でなければ、ガイは自分の命が危険でもルークを助ける筈がない。 ルークの存在はそれだけ大きい事は分かっている。 わざわざヴァンがアッシュの完全同位体として作ったレプリカは、それだけヴァンにとっても超振動という力が必要だからだ。 ガイがルークの力が必要だと思うのは無理もない。ジェイドですら、そう思う。 それに女性たちが気付いたかどうかは分からないが、誰もガイがルークを庇ったことを不思議と口にはしなかった。 彼女たちにもヴァンと立ち向かうにはルークが必要だと感じているからだろう。 そうして仲間たちはガイとルークの秘密の共有に気付く事はなかった。 あとがき ガイの最低っぷりに ど ん 引 い た !! という意見があれば大至急この話しを下げますね。別になくてもいいしね。 後補足として言うのなら、ガイは朝と夜でスイッチを切り替えているというより朝は周りの人に見つかりやすいから暗くなってからじゃないとそうしない感じです。 もしあの調子で話して探しにやってきたジェイドやアニスに見られたら一巻の終わりだと思ってます。というかルークを除いて全部ガイの中ではアウトです。 闇の現は暗闇にまぎれた現実。乱れまどう時の、僅かの間の本心という意味です。 丁度暗い間しかガイは本心を出さないのでぴったりかなと思うのですが、意味的にあっているのか不明です。違ったらすいません。 |