天人菊


ダアトに着く頃にはすっかり、日が沈み、ルークたちはダアトで一晩休むことにした。
久々にゆっくりと宿屋で休めるということでルークはすっかり気が抜けている。
夕食を目の前にしてだらけた様子で食事をするルークをアニスはじっと見つめていた。

「…なんだよ、アニス」

自分でも少し気が緩み過ぎだと思っていたが、こうも緊張状態が続き久々の宿となると嬉しくない方がおかしい。
ルークは口を尖らせたのだが、アニスは遠慮がちにルークに口にする。

「ルーク。髪の毛、みっともないよ?」
「……そうか?」

首を傾げたルークに側にいたナタリアも頷いた。

「ええ。以前からわたくしもアニスと同様に思っていましたわ。あなたの髪は清潔感にかけます」
「しょーがねーだろ。メイドにいつもやっててもらってたんだから」

ルークが無理無理と手を振ると、ティアが食事をしながら言う。

「だったら、少し整えたらどうかしら。あちこち傷んでて、みすぼらしいわよ」
「みすぼらしいだと…!」

ルークはつい声をあげて、席を立ち上がる。
そこへ女性たち三人の鋭い視線を向けられて、ルークは大人しく座った。だが、これだけは言う。

「…みすぼらしいは、言いすぎじゃねーのか」
「でしたらもう少し身なりに気遣いなさい。そうすればわたくしたちだってそんなことを言いませんわ」

ナタリアにチクリと言われてルークは黙る。
ガイはその話を聞いていて、確かにナタリアの言葉も一理あると思った。
旅を続けてずっと独自で乾かしたルークの髪の毛は、ごわごわなのだ。
毛先がかなり傷んでいて、使用人としてこれは見るに耐える。
ジェイドはそれに無関心で、食事を続けていた。相変わらずのおっさんだ。

ルークは久々にガイと同室だった。
ガイは部屋を暗くしないと喋らないことを知っているルークは早々に部屋の明かりを消す。
きっと仲間はまだ起きている時間だったが、ルークはそれだけガイに話したいことがあった。
よし話すぞ、と気追い込むのは良かったのだが、ルークは何が言おうとするのか纏まらない。
平和条約の事をガイは本当に何とも思っていないのか。ガイはヴァンをどう思っているのか。
メジオラ高原にやってきたリグレットにティアと共にヴァンの仲間にならないかと言われていたがそれはどうするんだ。
ガイはヴァンに関してその可能性を否定してきたのだが、ルークは不安だった。
よし、言うぞ。ルークは気合を入れてベッドに座るガイに近づいた。

「ガイ、あのさ…」
「なんだよ、ルーク」

暗がりの部屋は相手の顔が見辛い。
ガイは自分の表情が見られるのが嫌なんだろうなということはルークにも分かっている。
だが久々に聞く親しげな調子に、ルークは気分が高揚し、黙りこむ。

「…どうした?話がないなら、俺は寝るぞ」
「あ、ある!あのさ…、さっきその…アニスの奴が…」

ルークは口にしていて、ああ、しまったと思う。
実は結構アニスにそう言われた時はかなりショックだったのだ。
ナタリアに言われるまでもなく自分なりに必死に手入れをしたのだが、こうも長いのを一人で処理が出来ない。
その点、ティアは綺麗なストレートヘアーを保っているのだからルークは決まりが悪かった。
ルークは頭をつい掻き上げ、旅の前よりにごわごわになったそれに触れ、声が上擦る。

「…やっぱ…切った方がいいよな。みっともねーし…!」
「……」

ガイは黙ったままで、ルークは慌てた調子で言う。

「ガイだって、みっともねーって思うよな?こんな髪…」
「俺は、お前の髪の毛好きだぞ」

そう言って、ガイがルークの髪に触れた。
ルークは瞠目するが、ガイはルークに笑ってみせる。

「森で初めて会った時、綺麗だって思った。正直、今のは勿体ないんだ」
「勿体ない…?」
「そうだ。だから、俺でよければお前の髪の毛を乾かさせてもらえないか?今だって櫛で梳いたらかなり変わるぜ」

ルークはガイの言葉を半信半疑で聞いていたが、こくりと頷いた。
ガイはそれを見ると、早速こんな暗がりなのに櫛を取り出して、ルークの髪の毛を梳き始めた。
ルークはそれほど髪の毛に思い入れがあるわけではなく、ただなんとなく髪の毛を伸ばしてきた。
それは今思えば、アッシュになれない自分が嫌で、屋敷で居場所がない自分が寂しくて、殻に閉じこもりたかったと思う。
その一方で今まで切ってこなかったのはこの髪に愛着があったからに他ならない。
何がどうあるのだと問われても困るが、ルークは気に入っていた。
そしてガイに梳かれて思うことは、ガイの梳き方は上手だということだ。
ルークはいつも絡まった髪の毛があり、櫛で梳くときに引っ掛けては痛い思いをする。
しかしガイはそれがなく、さらさらと梳いているのだ。
ルークはどこか気持ちがよく心が穏やかになる。今ならガイに訊ねられると思った。

「…ガイは、平和条約が結ばれて安心したか?」
「まだ油断はできないさ。ヴァンの奴を倒さない限りはな」

ガイは思ったより、答えてくれた。
以前『怖くなったり、不安になったりしたら、ため込まずに気軽に話してくれ』とは訊ねてもいいことなのかとルークは思いながら、次の不安を口にする。

「じゃあヴァン師匠を倒したらその後はどうすんだ?」
「ヴァンを倒したら、国に仕える。和平でごたごたするだろうしな」

それはその通りで、ルークはメジオラ高原のことを思い出していた。

「ガイは、ヴァン師匠の元へ行かないよな?リグレットはああ言ってたけど、お前もティアも行かないよな?」
「当たり前だろ」

そういうとガイがルークの鼻をつまんでくる。
ルークは鼻をつままれてやめろよとガイに言うが、それが伝わったかどうかはわからない。
何せ鼻をつままれたせいで声が出しにくい。
するとガイは手を離し、ルークは痛む鼻を押さえた。

「そんなふざけたこと聞くなよ。ティアだって聞かれたら怒るぜ」
「…」

ルークはわーってるよ、とは言えなかった。目を伏せたルークにガイは頭をわしゃわしゃと撫でる。

「難しく考えるな。ルークが俺を疑う気持ちは分かる。ルークがそれに胸を痛める必要はないんだ。」
「ガイ…」

ガイはどうしてどこまでも優しい言葉をくれるのだろう。
そのせいでルークは甘えたくなる。ガイは撫でたせいで乱れたルークの髪の毛を整えた。

「疑うっていうのは何も悪いことじゃない。相手を信用するためにも、不安になって誰だって疑うことはあるんだからな」
「…うん」

ルークは髪の毛を撫でられ、小さく頷いた。ガイは整ったルークの髪を見ると、手を離していく。

「明日はザレッホ火山だ。中は熱いから注意しろよ」
「ああ」

体力がないと危ないということだろう。ガイは自分のベッドに腰掛け、ルークは横たわった。
すぐに寝息がし始めたルークにガイは目を這わせた。



朝になり、ルーク一行はダアト教会に足を踏み入れた。
アニスがザレッホ火山にあるセフィロトに心当たりがあると言ったからだ。
ダアト教会は複雑に入り組んでいるのだが、彼女は迷わず進み、古い図書室に足を踏み入れる。
本が乱雑に置かれ、埃っぽいその部屋にルークは眉を顰めるが、アニスは奥へと進みそこは行き止まりだった。
行き止まりじゃん、と零したルークにアニスは見ててと言って戸棚にある本を押す。
すると新たに道が開かれ、ルークは驚いた。

「ここの隠し通路を行けば、セフィロトに行けるよ」
「どうしてアニスがそれを知っているんですか?」

訊ねたのはジェイドだった。それを見たアニスは胸を張る。

「私だって無駄にダアト教会にいたわけじゃないですよ!モースの動向を探っていてここを見つけたんです〜!これなら簡単にザレッホ火山に入れるでしょ」
「そうだな。行こうぜ」

ルークは頷き、仲間たちはルークの後を追う。
隠し通路の先には部屋があり、その中心部に譜陣が描かれている。
アニスがまずはお手本としてその中に入っていく。ルークたちもその後を追った。
ザレッホ火山の内部は想像以上に厚かった。顔がとろける程の暑さで、セフィロトはすぐに見つかる。
イオンにダアト式封咒を解いてもらい、パッセージリングのある奥へと足を進めた。
ティアが装置を起動し、ガイが操作盤に書き込みをする。
それが終わると、ルークはジェイドに言った。

「次はロニール雪山だったな」
「そうですが、一度シェリダンに戻って、スピノザに頼んだ検証を確認しましょう。それ如何で、障気の処理について答えが出せます」

その問題をどうにかしないと、先には進めない。ルークはジェイドの言葉を飲んだ。

シェリダンに向かうと、スピノザはベルケンドに帰ったということだった。
そちらの研究施設の方が検証しやすいため、ベルケンドに向かったのだ。
ルークたちはそれに対し、大丈夫なのかと口にするが、アストンは大丈夫じゃろうという。
スピノザには見張りがいるし、不自然な動きをしたら分かる。
それにヴァンたちは完全にベルケンドから撤退したということだった。

ベルケンドに到着して、ルークたちはまずは知事に本当にヴァンたちがいなくなったのか確認を取る。
先のシェリダンの住民たちの大量虐殺で今はダアトに抗議している状態だと知事は答えた。
そうなれば、ベルケンドは安全と言うものでルークたちは研究所に急ぐ。
研究所にいたスピノザはジェイドの考えた案が可能だといい、ルークたちはベルケンドに一晩泊まることになった。

宿屋に向かう途中でルークは前から走ってくる子供がこけた拍子にアイスクリームが頭に当たった。
それを見てガイはある意味ルークは悪運が強いなと感心していた。
子供は泣きだすわ、ルークは頭にアイスクリームが乗ってアニスに大爆笑されるわで散々だ。
結局ナタリアがアイスクリームを新たに買いましょうと言って、子供の涙は収まった。
しかし次にアニスがアイス代をただで払うなんてと信じられないと顔を険しくする。

「ルーク。あなた宿に着いたら、シャワーを浴びた方がいいわ」
「分かってるよ」

ルークはつい、頭をぐしゃっと掻き上げてアイスが地面に落ちる。
しかも手が汚れて、ルークはつい汚ねぇと叫んでいた。
宿の受付はガイが済ませて、ルークは部屋に駆けこんでいく。
先程から人々の視線が痛いし、頭はアイスがついたせいで気持ちが悪い。
早急に風呂に入ったルークにガイはやれやれ、といった具合にベッドに腰掛けた。
すると程なくしてルークが風呂からあがってくる。
当然なことながら夕飯を済ませていないルークは胸は潰していた。
ルークは髪の毛を濡らしたまま、ガイに目を這わせる。

「えっと…、ガイ」
「約束は守る」

ガイは立ち上がり、タオルをルークの頭にあてた。
水分を十分に吸わせてから、櫛で梳く作業に移る。
それは昨夜にやってもらったものと全く同じ暖かさで、ルークはやっぱり同一人物なんだなとつい顔を俯けた。
夜にした会話をガイはちゃんと覚えている。一体どんな気持ちでいるのだろう。
二重人格ってそもそもそういうものなのか、という疑問があるがルークはそれを諦めた。
自分には分からない分野であるし、ガイはガイだ。自分がルークはルークとガイが言ってくれたようにそれだけなのだとルークが言い聞かせていると扉が開いた。

「ルーク。今日の買い物当番なんだけど…」
「あ、アニス!こ、これは…その…!」

部屋に入るなり見た光景にアニスは顔を思いっきり顰めた。
ルークは慌てて弁護しようとするものだからますます彼女の顔は厳しいものとなった。

「うわー、最っ低。っていうか、いつもガイに髪の毛乾かしててもらってたの?だからルークはガイと同室になっても文句言わないんだ〜」
「そういう訳じゃねえよ!今日はたまたま、こうなっただけで…!」

アニスはそれに対し白い目を向ける。

「たまたまガイがそういうことする〜?そんな訳ないでしょ。でもまあ、髪の毛濡れてるんだったら仕方がないね。疲れてるけど私が買い物当番行こうかな」
「…買い物当番を代わってもらうためにアニスは来たのか?」

ルークが今度は冷めた目をアニスに向けた。アニスはそれに対し、身をくねらせる。

「だって、買出しが多いんだもん。一人くらい男の手が欲しいじゃん。ガイと大佐は明らかに無理だけど」
「俺限定かよ!」

声を上げたルークをアニスはからかいながら、部屋を出ていく。
ルークはアニスの奴なんだよ、と零しているがガイは無言で髪を梳き続けていた。
そしてガイの手が離れて行く。

「…終わったぞ」
「サンキュな」

ルークは髪の毛の様子が違うことにすぐ気付いた。
ティアのサラサラストレートヘアーに比べたらルークはまだまだなのだが、若干サラサラになったような気がする。
鏡で見てみようとルークは立ち上がった時、部屋がノックされた。

「ルーク。夕食の用意が出来たそうですの。一緒に参りましょう」
「いいぜ。ガイも来いよ」

夕食が出来たことを知らせてくれたナタリアと共にルークは階段を下りて行く。
食堂は一階だ。ガイは二人の後を距離を開けてついていき、会話には入らなかった。
食堂について、ルークがむしゃむしゃと夕食を口に含んでいると、いつかのようにアニスが凝視してきた。

「またみっともないって言うつもりか?」
「そうじゃなくて、ルークってその気になればちゃんと髪の毛整えたんだね」

ルークはその言葉が理解できずに、訝しい顔になる。

「はあ?」
「そうですわね。あの日より髪の毛が整っていますわ」
「あなたもやればできるじゃない」

続けざまにナタリアとティアに言われて、ルークは顔を逸らした。
整えたのはガイであり、自分じゃない。しかしそんなに見た目がよくなったのだろうか。
ルークのその考えを見透かしたようにジェイドは言う。

「そうやって女性たちの人気を勝ち取ろうという寸法ですか。なかなかルークも狡賢い戦法をしますね」
「誰がだ!」
「そうでしたの、わたくし知りませんでしたわ。ではあなたは今まで怠けていたのですね」
「私たちの注意を受けて、ルークも内心喜んでたんだろうね〜♪」

ジェイドの言葉を真に受けたナタリアに、アニスが悪乗りする。
ルークはだから違うんだっつーの、と声をあげて違うと否定するが、ティアが言った。

「黙りなさい。他の人たちに迷惑よ」
「…」

ルークは腑に落ちないという顔をしつつも、黙りこむ。
楽しいはずの夕食がどんどんどんよりと暗いものになっていく。

「いけませんね、ガイ。こんなに空気を重たくしては今後の連携に関わってきますよ」
「大佐、ガイに振らないで下さい!シャレにならないですよぉー!」

責任転嫁をガイにはかろうとしたジェイドにアニスが止めに入る。
ガイは黙々と食事をしただけはあって、一人その場を後にした。
ルークはいなくなった後もなおそちらに目を向けていると、ミュウが言う。

「ご主人様。ガイさん全然仲良しにならないですの」
「…うるせー、ブタザル」

ばこっとルークはミュウの頭を殴った。それを見たティアが声を上げる。

「ルーク!なんてことするの!?」
「みゅうううう。ご主人様にブタザルと言われたですの!!」

最近はずっとブタザルと言われていなかったミュウが喜ぶ。
アニスはそれにミュウってマゾだなと若干引きつつ、ミュウの意見には同意する。

「でもガイって本当に一緒に旅しても変わんないね。少しは笑ったりすればいいのに」
「…」

ルークはそれに目を見張る。アニスはあのガイを知らないのか。
そう想っていると、ジェイドは言う。

「彼が小さい頃から知っていますが、あれは相当ですよ。私の知る限りガイは一度も笑っていません。これからも笑うことは夢のまた夢なのでしょう」
「…ときどき、ガイに感情があるのか疑ってしまいますわ」

ナタリアが目を伏せがちにそういった。ルークはそれに席を立ちあがる。

「ナタリア!」
「酷いことを言っているのは分かっています。けれど、全く表情を見せないなんて…怖いですわ」
「ナタリアの気持ち分かるよ。私だってガイが怖いもん。きっと自分の目的と違うことを私がしたら、きっと…」

アニスが顔を翳らせ、ルークは言葉に詰まった。
ここに居たくない。ルークはその場を去っていく。去って行ったルークを見てアニスがぽつりと言った。

「ルークはガイのこと、気にしてるんだよね…」
「…叔父様がガイの家族を殺したんですもの。気にするのは当然ですわ」
「だからといって気にしすぎですし、あれでは逆にガイも息が詰まるのでは?部屋にルークは戻ったのでしょう」

それに皆は黙す。
そしてアニスはそういえば、私アルビオールに荷物届けなきゃと、その場を後にする。
宿屋を出て、思うことはやはりガイの事だった。

(ルークはお人よしだから、ガイに騙されてそうで不安だな〜。全く手が掛るんだから)

アニスは今日買った道具をアルビオールに届け、そして宿屋にとんぼ返りだ。
そして遠くから一つだけ明かりが消えた部屋を見て、アニスは気付く。

(あれってガイとルークの部屋だよね。気まずいからってもう寝てるんだ…。ルークも嫌なら嫌って言っちゃえばいいのに)

そこまで考えてアニスははっとする。そういえば今日ルークはガイに髪の毛を梳いてもらっていた。
髪の処理をするのが面倒だからガイと同じ部屋になっても文句を言わないんだとからかったのだが、まさか本当だったのか。
アニスはそれくらい自分で処理をすればいいのに、と呆れて肩を大仰に下げた。



朝、ルークが寝ているとアニスがルークを揺する。

「ルーク、起きてってば!」
「……う……ん……。なんだよ……」

ルークは何でアニスがこの部屋にと思うより先にアニスは叫んだ。

「ティアがいなくなった!」
「はあ!?」

ルークは驚いて上体を起こす。
夕飯の時の格好のまま寝て良かったと思うより先に、ルークはティアが居なくなったことで眠気が吹き飛んだ。
部屋に入ってきたナタリアがアッシュもティアと一緒に港へ行ったと口にする。
そしてティアは置手紙の代わりにワイヨン鏡窟で取れる鉱石を残していった。
ルークたちはティアを追うべく、急いでワイヨン鏡窟に向かう。

ワイヨン鏡窟につくと、そこにはオラクルの兵の姿があった。
ルークを見て一度アッシュと間違えかけるがすぐに違うと武器を構える。
ルークたちも武器を構えるが、そこへリグレットがやって来てルークたちに構うなといい、作業を進めろとも言った。
ルークたちはそれに眉を顰めるが、リグレットはティアを捜していることも見抜き、先へ進むがいいと言い残して行ってしまう。
ナタリアは先を急ぎましょう、と言ったが足が止まる。
ここはアッシュと一緒に来た場所だ。その時のことを思い出していると、ルークから声が掛る。

「ナタリア?」
「なんでもありませんわ……」

ルークに声を掛けられてナタリアは歩きだす。
しかし足がもつれ、地面に転がりそうになったナタリアをルークが抱きとめた。

「大丈夫か?」
「あ……」

申し訳なさそうに視線を上げたナタリアに、ルークは小さく笑う。

「おまえ、案外ドジだよな。―ん?どうした?」
「いえ……何でもありません。ありがとう、ルーク」

ずっと見つめたナタリアにルークが訊ねれば、ナタリアはお礼を述べた。
ルークは別にいいけどよ、と言うと先に歩いて行ってしまう。
ナタリアはまた物思いに耽けそうになるのを押さえ、先に進んだ。

奥に進むとヴァンの姿とティアと、アッシュもいた。
ヴァンが地殻の静止を嫌がったのは地殻の振動が激しくなればプラネットストームが強まり、第七音素の供給量が増えてレプリカ大地が作りやすくなる為だった。
ヴァンはローレライを消滅させ、レプリカを作ることによって世界を生まれ変えさせると語り、オラクルの兵士が作業が終わったことをヴァンに報告する。
ヴァンはそれを聞くと、アッシュにアブソーブゲートで待つと伝えると去って行った。
去りゆくヴァンにアッシュは立ち上がろうとするが、ヴァンにやられた傷が深く、膝をついてしまう。

「無茶ですわ!」

ナタリアがアッシュの体に治癒術をかける。
その傍らでアッシュの視線が牢屋に入っていたチーグルに動くのをガイは見ていた。
以前二匹いたチーグルは今はレプリカ側の方しか残っていない。

「どこへ行きますの!」
「俺には……時間がない」

ナタリアから離れたアッシュはそれだけ言うと去っていく。
イオンが街に戻りましょう、声をかければジェイドがシェリダンが近いからそこへ向かうと提案する。
すると、右の牢に残っているチーグルをミュウは指さした。

「あのコも連れて行ってほしいですの」
「そっか。ここ、誰も来なくなっちゃうんだ……」
「わかった。連れて行こう」

寂しげにアニスがいい、ルークは牢からそのチーグルを取り出した。
ジェイドはそのチーグルをじっと見ていたが、すぐに目を逸らす。
ルークはその視線に気づくことはなかった。

シェリダンについて、ルークはアストンにこのチーグルを任せると一行はケテルブルクに向かった。



あとがき
所々はしょってます。じゃないと長くなるので。
それにしてもこんなに長くなるとは思ってもいなかったです。
早く最終回になればいいのに、なかなかなりません。自分の構成力のなさを嘆くばかりです。
今回の話でルークの髪の毛長かったのかよって驚く方が多いと思います。
実はずっと迷っていて、髪の毛長い方が何かといいよなあと思ったので長いままにしました。
何がいいのかと言えば、ガイが弄れるからです。
ルークの髪を梳いてやるのは使用人の俺の義務だ、くらいガイは思ってそうなので。
あとなんでアニスが道案内してるのかという補足説明です。
ガイからザレッホ火山にセフィロトがあると聞いて、ザレッホ火山の入り口なら知っていたからです。
でもセフィロトがある事は今まで知りませんでした。ただそれだけです。
最近タイトルに行き詰まりを感じる…。前から迷走してるけど今回のはないなと自分で突っ込んでます。



2011/04/22