雲路
セントビナーに到着すると、老マクガヴァンがルークにまた戻ってきたのかとルークを見るなり口にした。 ルークは一瞬何を言っているのか分からず顔を顰めるとマクガヴァンは一人納得したように言う。 「わざわざ服を着替えてくるとはなかなかのもんじゃ。おまえさん、性格の悪いところがジェイド坊やに似たんじゃないのか?」 「……アッシュのことね、きっと」 呆れつつ、ティアが口にする。 「えっと、俺そっくりで黒衣の服着てる奴、アッシュって言うんですけどどこに行ったか知りませんか?」 「なんじゃ、アレはおまえさんの双子の兄弟かなんかか」 「ある意味一卵性だよね……」 「えっと、そんなトコです。それであいつは……」 ルークは適当にマクガヴァンに話を合わせて、アッシュの居所を聞いた。 アッシュはシュレーの丘に行ったとマクガヴァンは教えてくれる。 ルークは早速シュレーの丘に向かった。 地盤沈下した影響でシュレーの丘まで入れなくなっているかもしれないと懸念したルークたちだったが、問題なくそこのセフィロトに入っていく。 入口に入るとオラクル兵が倒れているのが目に入る。嫌な予感がしたルークが奥へ急いだ。 すると片膝をついたアッシュにリグレットが銃を構えているのが目に入る。 「ローレライの鍵を渡してもらいましょうか」 「……断る」 「教官!?」 ティアがリグレットの姿に驚き、リグレットがそちらに目を向ける。 その隙を狙って、アッシュとルークが攻撃を仕掛けたが、リグレットはかわす。 ティアもナイフを投げようと取り出すが、リグレットにそのナイフを弾き飛ばされた。 「反応が遅いな、ティア。予想外の事態にも対応できるように体を覚えさせろと教えたはずだ」 「教官……生きていらしたんですか……」 「あの雪崩で生きてるなんて……」 「アリエッタの魔物たちに救われてな。しかしあの雪崩で怪我を負ったために、閣下を守ることができなかった……。だが世界は我らに味方している。今度こそ閣下の願いを実現する!」 リグレットが声高にいい、アッシュがリグレットを睨む。 「……やらせるかよ」 「アッシュ。次はローレライの鍵を渡してもらうぞ」 リグレットは飛来した魔物の足に捕まり、その場を離れていく。 それにアッシュは口惜しそうに顔を歪め、ティアは驚きを隠せない。 ヴァンが生きていることですら驚いているというのに、リグレットたちまで生きていたとなると心中穏やかではいられないのだろう。 ティアは一ヶ月間悩んできたのだから、尚更だとルークは思う。 「アッシュ、大丈夫か」 「……あいっかわらず感じが悪いっつーの」 手を差し伸べたルークの手をアッシュは弾き、アニスが毒づく。 無言で立ち去ろうとするアッシュにルークは呼びとめる。 「待てよアッシュ!おまえは鍵を貰ったんだろ?俺には届いてねーみてーなんだ。どういうことか、分かるか?」 「届いていないだと!?この劣化レプリカが!俺はお前の尻ぬぐいをさせられてるんだ!これ以上俺に面倒を掛けるな。役立たずのレプリカが!」 「そんな言い方しなくたっていいだろ!」 「うるせぇっ!」 アッシュは怒鳴り、その場を去っていく。 ルークはそれについ悲しげな顔を浮かべるが、ふと昨夜ガイが自分に何かしたことを思い出す。 ガイは自分に向かって何か言っていた。そして何かを取り出したのだ。 「ルーク、大丈夫?」 「…あ、ああ。大丈夫だ。取り敢えず、セントビナーに戻ろうぜ」 心配したアニスにルークは取り繕って答えた。 ジェイドはパッセージリングを少し見つめて、すぐにルークの後を追う。 セントビナーに到着すると、先程とは打って変わってマルクト兵が溢れていた。 ジェイドがマルクト兵の一人に事情を訊ねると、ケセドニア方面部隊が演習中襲われたことを聞く。 「はぅあっ!?どこの誰がマルクト正規軍を襲うんですかっ!?」 「少し前ならキムラスカだったのですが」 漂然とジェイドは口にし、そのキムラスカ人であるルークが白い目を向ける。 「……ナタリアがいたらぼろくそに言われてるぞ」 「内緒にしておいてください」 「大佐って見た目は怖いけど、中身は面白いですよねv」 「中身だっておっかねーよ」 ルークが呆れて手をふって言えば、アニスに言う。 そこへマクガヴァンが顔色を変えてジェイドに近づいてくる。 「大変じゃ、ジェイド。フリングスが負傷したという情報が入ったぞ!」 「フリングスって、あのフリングス将軍!?」 ルークはぎょっとし、マクガヴァンは首都に搬送されたことをジェイドに知らせる。 ジェイドは頷き、ルークたちはグランコクマに向かうことになった。 ルークたちがマルクトの軍基地に到着すると、フリングスがルークたちの姿を見るなり立ち上がった。 「カーティス大佐。それに、皆さん」 「怪我は大丈夫なのか?」 ルークが心配した様子で訊ねると、フリングスは少し苦笑する。 「いえ。私の怪我はかすり傷なので…。ただ陛下にご報告することがあったので、首都に戻ったのです」 「マクガヴァン元帥はあなたを首都に搬送したと言いましたよ?」 ジェイドが訝しい調子でいえば、フリングスは「兵士が混乱したのでしょう」とだけ口にする。 その様子を見て、ジェイドはフリングスに訊ねた。 「一体誰が演習中のあなた方を襲ったのですか?」 「わが軍を襲ってきたのは、キムラスカ軍機を揚げた、一個中隊ほどの兵であります」 「そんな馬鹿な!」 ルークは思わず声を上げるが、フリングスは続ける。 「彼らは第五音素(フィフスフォニム)を用いた譜業爆弾で、わが軍の側面より自爆攻撃を決行してきました」 「……とても正規軍が行う傭兵ではないわ」 ティアが考え込む様子を見せる。そしてフリングスは言った。 「ええ。彼らの大多数は兵士とは思えぬ軽装で、軍服を着用していたのは一部のみ。軍機と装備の一部を見れば確かにキムラスカ軍でした」 「……」 ルークが目を伏せると、フリングスはちらりとそちらを見やった。 「ですが、あれはキムラスカ軍ではないとガルディオス伯爵が事前に私に教えて下さったのです」 「一体、どういうことですか」 ガルディオスと言う言葉にルークは一瞬誰の事だか分からなくなるが、ガイだと思いだす。 ガイがなぜそんなことをフリングスに伝えたのかと思えば、フリングスも困ったように言う。 「それは私も驚いたのですが、彼が事前にそのことを話していたからこそ死傷者が出なかったのです。しかし大半の兵士はあれがキムラスカの仕業だと思っています」 「ガイは、誰の仕業なのか知ってるのか?」 ルークはついフリングスに訊ねていた。フリングスはそれに目を伏せる。 「ガルディオス伯爵は、あれはレプリカだと言っていました。私もそう思います。皆、生気のない目をしていた…。まるで…死人です」 「……レプリカ」 ルークは呆然とし、ただその言葉にショックを隠せない。 フリングスはルークに労わりの目をかけつつ、その場を後にする。 ジェイドは誰に言うのでもなく、口にする。 「フォミクリー実験によって生み出されたレプリカたちは自分で歩くことも立つ事も出来ません。ですが、多少の刷り込みをすれば軍事転用ができます。恐らく六神将たちがレプリカを使ってキムラスカ軍に見立てたのでしょう」 「……でも、俺はどうなるんだ?」 ルークはジェイドに訊ねていた。ジェイドはそれに答える。 「あなたは刷り込みをなしに、普通の子供として育てられた。ですからあなたには関係ない話ですよ。生まれたてのレプリカは自我なんてありませんから」 「……」 複雑な気持ちで聞いていると、ティアが口を開く。 「でも、ガイは一体なぜフリングス将軍にそんなことを教えたのでしょう?」 「ヴァンが生きていると知っていたからでしょうね。ガイはヴァンに敵対するというのは本当だったということでしょう」 アニスはジェイドを余所余所しく見上げる。 「大佐。本当にガイってグランコクマには戻ってきてないんですか?」 「ええ。全く戻ってきた形跡も見られません。屋敷にも帰っていないようです。たった一人の従者がいるというのに可哀想なことをしますねえ」 白々しくジェイドは言ったが、従者と言う言葉を聞いてルークは黙っていられなかった。 「従者って誰だ?」 「ガイの父君の元は右腕だったそうですが、今はご老人ですよ。確か名前をペールと言いましたか」 ルークはそれに黙りこみ、どこか考え込んだ様子だった。 ジェイドはピオニーに謁見し、今後の事を伝えたいといい、ルークたちはそれに倣ってついて行く。 「つきましては、彼を通じて内々に事の真偽をキムラスカ王宮に照会するべきかと思います」 「ルーク、頼まれてくれるか?」 ジェイドの話を聞いたピオニーは早速ルークに言う。しかしルークは気が乗らない様子で、呟いた。 「俺の話……聞いてもらえるのかな」 「何言ってんの。ルークはインゴベルト陛下の甥っ子でしょ」 その呟きを聞いたアニスが呆れたように口にする。 しかしピオニーは目ざとく気付いた。 「なんだ?レプリカだっていじめられたのか?ならガイラルディアと一緒にこっちで暮らすか?」 「陛下。笑えない冗談はやめて下さい。それにガイは今グランコクマにいないでしょう」 どこまでが冗談なのか分からないが、ルークの胸は否応なしにどきりとする。 ピオニーは残念そう口にした。 「俺は本気だったんだがなぁ。まあいい。ルーク自信を持て。おまえさんはキムラスカとマルクトに平和条約を結ばせたんだ」 「……は、はい」 ピオニーはルークを励まし、ルークも不器用ながらにそれに頷く。 今日は一晩グランコクマに泊まることになり、ルークはガイのことを思い浮かべていた。 レプリカの仕業だといった彼は、一体何が目的なのだろう。 グランコクマにいるというペールと言う彼の従者に聞けばわかるだろうか。 ルークはそんなことを考えながらも、明日はバチカルだと言い聞かせて眠った。 バチカルに到着し、ルークは城を目の前にして足を止める。 「ナタリアが戻ってると助かるんだけどな……」 「呼びまして?」 ルークの後ろに兵を連れたナタリアが現れる。ルークはそれに驚いて振り返る。 「うわっ!?おまえ、なんでここに……」 「ケセドニアの視察を終えて戻ったところですわ。それより丁度いいところに!」 ナタリアはジェイドにつかつかとあるいて行ったと思ったらその胸倉を掴む。 「おや……!」 「まあ、相変わらず涼しい顔で!どういうことですの!我がキムラスカ王国は平和条約に基づき、マルクト軍に対して軍事活動を起こしてはいませんのよ」 ナタリアの言葉を聞いて、ジェイドは彼女の言うとおり涼しい顔で口にする。 「ああ、やはりそうでしたか」 「やはりそうでしたかではありません!ケセドニアでは、まるでこちらが悪事を働いたと言わんばかりに白い目で見られ、屈辱でしたわ!まさかマルクト軍の示威行動ですの?」 怒り狂ったナタリアを宥めるべくルークはナタリアに声をかける。 「その話をしたくて来たんだナタリア。非公式に陛下に取り次いでくれないか?」 「よろしいですわ。お父様のお部屋で詳しいお話を聞きましょう」 ナタリアはそこでやっとジェイドの胸倉を離し、インゴベルトの私室へやってきた。 ルークはふとナタリアの幼き頃の絵画が目に入る。伯父上はナタリアを大事にしていて、これなら以前の関係を戻せるだろうなと思い、話をする。 インゴベルトとナタリアに事情を説明すると、ダアトに言ってイオンの力を借りるという結論に至った。 一行はダアトに向かい、教会に入る。するとイオンがモースに連れて行かれるのを見た。 それにルークたちは慌てて後を追い、モースが以前ザレッホ火山のセフィロトに使用した部屋に入り譜陣の中へと消えていく。 ルークたちもその譜陣の上に乗るが反応しない。 どうやらモースが譜陣を操作し、反応しないようにしたようだ。 アニスはそれを見ると口にする。 「ザレッホ火山は他にも道があるの!急ごう!」 「ああ」 モースがイオンを連れ去ったとなるとやることは一つだろう。 ルークが焦りながら走って教会の外に出るとリグレットの姿があった。 「今、おまえたちに動かれては迷惑なのだ。それにローレライの鍵について聞きたいことがある。大人しくしてもらうぞ」 リグレットは銃を構えるが、背後からアリエッタの魔物が襲ってくる。 リグレットは辛うじてそれを避けたものの、アリエッタは人形を強く抱きしめながらリグレット睨んだ。 「……イオン様に何をさせるの。リグレット」 「アリエッタ!そこをどきなさい!」 リグレットはアリエッタを叱りつけるように言うが、アリエッタは叫ぶ。 「イオン様に第七譜石の預言を詠み直しさせるって本当なの!?体の弱いイオン様は死んでしまう!アリエッタ……そんなの許せない!」 「モースを動かすには、それが一番簡単なエサよ。あなたが望むフェレス島復活の為には必要なの。わかるわね?」 リグレットはアリエッタに言い聞かせる。しかしアリエッタはルークを見た。 「ルーク!早くイオン様の所へ行って!ここはアリエッタがなんとかする!だからイオン様を」 「アリエッタ!裏切るの!?」 「ヴァン総長は、イオン様を殺さないって言ってたもん!裏切ったのはリグレットたちだよ!」 アリエッタは魔物にリグレットを襲うように指示を出し、ルークたちはそのわきを抜けていく。 アリエッタは余程イオンが大事だったのだろうが、そのイオンは既に亡くなっている。 彼女はそれを知ったらと思うと、ルークは表情を暗くした。 ザレッホ火山に到着し、譜陣の移動場所までルークたちはなんとか辿り着いたが、そこにはイオンの姿がなかった。 モースはルークのたちの姿を見るなり走って逃げていき、ルークたちは追いかけたかったが、レプリカがモースの道を阻みそれは叶わなかった。 モースが逃げ切るとレプリカたちはぞろぞろとその場を下がっていく。 ルークは生気のないその目を見て、これがレプリカなのだと胸を痛めた。 「イオン様…どこ行っちゃったんだろう…」 「…アニス」 今にも泣きだしそうなアニスにルークは声を掛けられなかった。 行く前にジェイドが第七譜石を詠まされたイオンは死んでしまう恐れがあると言った。 レプリカの死とは肉体の消滅を意味する。 そのため亡きがらも何もなかったイオンは消滅したのだと少なからず仲間は思っていた。 取り敢えず一度ダアトに戻って、アリエッタの様子を見ようとルークは仲間に声をかけた。 ダアト教会に戻ると、アリエッタは部屋で傷の手当てを受けていると聞いた。 ルークたちはそこへ向かったが、アリエッタが丁度出てくるのが見える。 「アリエッタ様!動いてはお怪我にさわります!」 治療をしていたオラクル兵がアリエッタを止めるが、アリエッタはアニスの傍にイオンがいないのを見ると叫んだ。 「……イオン様を殺した!アニスはイオン様を殺したんだ!」 「アリエッタ、アニスは…」 殺してない、とルークが言いかければアニスはルークを制した。 ルークはまさかアニスは守れなかったから殺したというのだろうか。 すると涙を流しながらアリエッタは言う。 「イオン様はアリエッタの恩人。ママの仔たちの仇だけじゃない。アニスはイオン様の仇!アリエッタはアニスに決闘を申し込む!」 「……受けてたって」 「待って下さい!」 アニスの声を遮ったその声にアリエッタもアニスが振り返る。ルークも驚いて、その人物の顔を凝視した。 「「…イオン様!!」」 アリエッタとアニスが信じられないとイオンを凝視する。すると彼は小さく笑った。 「僕はこの通り無事です。ですからアリエッタ。決闘なんてやめてください」 「イオン様!アリエッタやっぱり…納得できません…!アニスが導師守護役なんて、危険…です!」 アニスはいつもだったらなんだとと目くじらを立てるところだが、今回は返す言葉がない。 イオンもそれに困ったような顔をして、アリエッタに目を落としている。 「アリエッタ…、僕は…」 「僕は、導師のレプリカだからアリエッタを導師守護役として迎えることはできないんです」 突然聞こえたもう一つのイオンの声にアリエッタは目を見開く。 そちらに目を向ければ黒衣の服を着たイオンの姿があった。 くすくすと薄笑いを浮かべたイオンは、イオンに向かって続ける。 「ってさあ。言ってあげたらいいだろ。彼女が可哀想だ」 「イオン様が…二人!?」 「シンク…!生きてたのか!!」 ルークがシンクに構えるが、シンクは制止するように手を向ける。 「おっと、馬鹿な事はやめなよ。ここはオラクル兵が山ほどいるんだ。導師イオンのこのボクがあんたらを襲えと言ったら誰も逆らえない」 「あんたって、最低だよ!」 アニスがシンクを睨むが、アリエッタはまだ理解できないようでシンクの顔をじっと見る。 「イオン様…あなたが本当のイオン様だったの?」 「―アリエッタ。あんたはもう用済みだ。そうヴァンからの御用達だよ」 シンクは冷やかにアリエッタを見下ろしてそういった。アリエッタはそれに目を見開く。 「用済み…どういうことですか…?イオン様…」 「ふん。まだ導師イオンが生きていると思ってるの?ボクらの顔を見てわからない?本物の導師はとっくに亡くなったんだよ。ボクたちはそいつのレプリカさ」 「シンク!!」 アニスが叫ぶが、シンクはそちらを一瞥する。 「いい加減真実を教えてやればいい。ボクたちはこいつの好きな導師に作られたんだから」 「シンク…ですが、アリエッタには…」 イオンが目を辛く伏せた。 アリエッタは辛い顔をしたイオンと、せせら笑うイオンを見て、頭を押さえる。 「嘘、嘘、うそ、うそ、うそ、うそ!イオン様が死んだなんて信じない!!」 「死んだからボクらが作られた。この顔は導師イオンそのものの筈だ」 無情にもシンクは口にし、アリエッタは放心する。 動きが止まったアリエッタに、シンクは息の根を止めようと襲いかかった。 そこへルークは割って入り、なんとかシンクの一撃を防御する。 それを見たシンクは嘲笑する。 「まあ、いいさ。どうせそいつはもう使い物にならない。ボクの仕事は終わった」 「待て!」 ルークは消えたシンクに舌打ちした。そしてアリエッタに振り返る。 彼女は無言のまま立ち上がり、イオンが駆け寄った。 「アリエッタ…、すみません。僕はあなたをずっと騙してきました…」 「…本物のイオン様は…もう…いないんですね…」 アリエッタの空虚なその言葉にイオンは胸を痛めながら頷く。 「ええ。もういません。ですが、導師は…」 「アリエッタは…イオン様を守れなかった。…だからアリエッタは導師守護役失格…です」 「そんなことありません!アリエッタは僕を守ろうとしてくれじゃないですか」 「…アリエッタが守りたかったのは、イオン様…。あなたじゃない…」 アリエッタの言葉にイオンが目を見開いた。そしてアリエッタは魔物の上に乗る。 「アニス。そのイオン様はアニスが守ってね…」 「アリエッタ!どこ行くつもり!?そんな怪我でどこかに行ける訳ないじゃん!」 アニスが叫ぶが、アリエッタは魔物の共に姿を消した。イオンは項垂れる。 「僕は…アリエッタに何もしてあげられなかった…」 「イオン様が悪いんじゃないですよ!シンクが悪いんです!」 アニスはそういったが、イオンの顔が晴れることはなかった。 あとがき ピオニーの言葉はそのまま本編でもルークに言った言葉です。 本当にガイの屋敷にルークが来てくれたらいいのに、といつも思います。 タイトルはくもじって読みます。月や鳥が通るとされる雲の中の道だそうです。 |