愁い


イオンはアリエッタの事もあり、暗い表情を浮かべたいた。
しかしルークに顔を向けて言う。

「ルーク。ベルケンドに向かって下さい。そこでアッシュを見たと言う人から話が聞けるはずです」
「…ああ、分かった」

何気なくルークはそれに答えるが、ジェイドは疑わしそうにイオンを見る。
イオンはモースに攫われていた。あのイオンがモースから逃げるとは到底見えない。
しかし実際イオンはモースの手を逃れ、今こうしてここにいる。
誰かが助けたと考えるべきなのだろうが、その相手が一人しか思い浮かばなかった。
ジェイドは一体何を企んでいるのかまるで見当がつかず、一人物思いに耽る。

ルークはイオンに言われた通りベルケンドに行く。
スピノザの元へ行くと世話話をすると同時にアッシュがロニール雪山のセフィロトに向かったことを知らせた。
ルークたちは早速ロニール雪山に向かうが、そこでルークはロケットを拾う。

「新暦1999年。我が娘メリルの誕生の記念に……?」

ルークはその名前に聞きおぼえがあった。これはナタリアの本当の名前だ。
生まれた年も同じのそれにルークはすぐにこれはナタリアの事だと思った。
ルークは後でインゴベルトに訊ねようと、ペンダントをポケットの中にしまい込む。
セフィロトの中に入ると、話を聞いていた通りアッシュが中にいた。
ルークが訊ねても答えないアッシュだったがナタリアが訊ねると辛うじて答えてくれる。

「アッシュ!あなたの知っていることを教えて下さいませんか」
「元々ローレライは、地核からの解放を望んでいたようだ。俺やルークに接触したのも、地殻に留まることでこの星に悪影響が出ると考えたためらしい」
「確かにティアの体に乗り移ったローレライは、そんなことを言ってましたね」

ジェイドの言葉を聞いて、ルークもその言葉を思い出す。
永遠回廊の牢獄から解き放ってほしいと、ローレライは言ったのだ。
これが恐らく地核からの解放ということなのだろう。

「それなら、ローレライがとじ込まれている場所は地核なのですか?」
「いや。今はいない。ローレライはおまえたちがヴァンを倒した後、地殻から消えた」

ナタリアの疑問にアッシュはそう答えた。ルークも首を傾げる。

「ならどこに……」
「……奴は俺との最後の接触で言っていた。ヴァンの中に封じられた、とな」

地殻からの解放を望んでいたローレライは今やヴァンの中から解放されることを望んでいる。
それを理解したルークは、アッシュに言う。

「じゃあ俺たちと力を合わせて、宝珠を捜そうぜ。ローレライの鍵はその剣と宝珠なんだろ」
「レプリカと慣れ合うつもりはない」
「レプリカだから、おまえの助けが必要なんじゃないか!」
「いい加減にしろ!おまえがそんなセリフを言える立場だと思ってるのか!」

二人は睨みあう。そこへティアが止めに入った。

「やめなさい!二人とも喧嘩してる場合じゃないでしょう?」
「……俺は他のセフィロトを回ってみる。おまえは受け取り損ねた宝珠の場所を見つけるには、それくらいしかないからな。おまえたちはおまえたちで勝手にしろ。何か分かったら連絡ぐらいはしてやる」

アッシュはそれだけ言うと、立ち去る。
ジェイドはアッシュに宝珠の事を任せて、今後はどうするかとルークに訊ねた。
ルークは先程拾ったロケットのこともあり、バチカルに向かうと答えのだった。


バチカルに到着すると、兵士が慌ただしく走っていくのが見えた。ルークはそれについ声をかける。

「おい、何かあったのか?」
「ダアトから手配中のモースを発見して連行したんだ!―だが、隙をついて逃走されてな。これから街を封鎖して捜索するところだ」

その言葉を受けて、ルークはモースを捜そうと言いだした。
仲間も放っておける問題ではなくそれに頷く。
ルークは何気なく港に向かうとモースの姿が目に入った。

「待て!モース!」
「潔くローレライ教団の査問会に出頭し、自らの罪を認めなさい!」
「冗談ではない!罪を認めるのはおまえたち預言を無視する愚かな者共だ!」
「そうですとも、モース様!」

モースが走って逃げた先に、高笑いするディストが現れた。

「おお、ディストか!」
「……ディスト。いっそのこと、ず〜っと氷付けにしておけばよかったのかも知れませんねぇ」

ジェイドがそう口にすれば、ディストは僅かに怯えた。

「だ、黙りなさい!あなたは昔からすぐ約束を破って!卑怯じゃないですか!さあ、モース様、こんな奴らは放っておいて、我々と行きましょう」
「待て、ディスト!わしはこの場で導師の力を手に入れる」

モースはディストにそういい、ディストは訊ねた。

「よろしいのですか?」
「世界のあるべき姿を見失っているこの愚か者共に、わしが新たな力を見せつけるのだ」
「それでは……遠慮なく!」

ディストはモースに近づき、何か譜陣が浮かびあがる。
モースはそれに包まれ、肉体が変形していく。その様を見てルークは唖然とした。

「な、なんだあれは……」
「……私の眼と同じでです。体に音素を取り入れる譜陣を刻んで譜術力を上げる。ただあれは……第七音素を取り入れる譜陣です」

魔物と化したモースは、足が退化し、背中に歪な羽が生え、その大きな腹には何かの譜陣らしいものが刻まれている。
黒い魔物としかいいようがないそれにルークは息を飲んだ。その横でティアが叫ぶ。

「第七音素の素養のない人がそんなものを刻みつけたら、全身の音素が変異します!」
「ぐふぅ……ディスト!なんだ、この醜い姿は!?」

モースの声がこだまする。
ディストはただモースの体がもっとふさわしい形を取ろうとした結果だと述べ、モースも湧きあがる力に感嘆する。
モースは一人、ディストを置いて空を飛んで行った。
いずれモースは正気を失うとジェイドから聞いて、顔を俯けたルークにディストは実験が出来ればいいのですと言ってモースの後を追う。

「……モースの奴、あんな化け物になっても預言を守りたいのか」

ぽつりとつぶやいたルークの沈んだ声に、誰も答えることはなかった。

ルークは城に向かったのだが、ナタリアがいるのが非常にまずかった。
彼女の前でロケットの事をいえば、ナタリアはきっと胸を痛めることになる。

「あ、あのさ。俺一人で陛下に会いたいんだけど……」
「まあ、どうしましたの?わたくしたちが一緒では不都合でもありますの?」
「そ、そういう訳じゃないんだけど……」

ルークがそうやって言葉を濁すと、ジェイドが割って入ってくる。

「実はここだけの話ですが、陛下はあなたを王妃にと御所望なんですよ」
「わ、わたくし!?わたくしにはルークが!あ、でもアッシュもいますわね。この場合どうなるのでしょう……」

ルークはジェイドにぎょっとするが、ジェイドはまあまあ任せて下さいと言った具合にルークを見る。

「というわけで、ナタリアには秘密で手紙を渡すよう言われているんですよ。ね、ルーク」
「あ、ああ。そうなんだ」

ルークはここはジェイドに合わせるべきだと思い、頷く。
ナタリアはそれに頬を染め、ここで待ちますと答えた。
ジェイドは早速ルークを連れて城の中に入る。
アニスはそれにならって、戸惑うイオンの手を引いて行った。

インゴベルトにロケットの中の写真を見せると紛れもなくナタリアだと答えた。
それにアニスがそれをラルゴが持っていたのを以前見たと口にする。
しかしいまいち判然としない。
インゴベルトは乳母の事を思い出し、ケセドニアのアスターのもとで働いているとルークに告げた。

「はっきりした答えが出たら一度陛下のところへ窺います」
「たのむ。……しかしルーク。どうしたのだ。陛下などと、おまえらしくない」

インゴベルトが気にした様子でルークを見れば、ルークは目を落とす。

「……俺、レプリカですから」
「それはいらぬ気遣いだ。わしにとっておまえも甥には違いないのだぞ」
「……はい」

ルークは暗い顔でその場を後にし、城の前で待っていたナタリアはルークの姿を見ると駆け寄った。

「お、お帰りなさい。あのお父様はなんて……?」
「いや、アッシュがいるからって言ってたけど」

そういえばそういう話をしていたなとナタリアの顔を見て思いだしたルークは咄嗟にそう言った。
するとナタリアは少し嬉しそうに声が弾む。

「アッシュが?お父様はアッシュと私をと考えていますの?ではあなたは……」
「あー、いや、だから俺かアッシュかってさ」

ルークは頭をぼりぼり掻いてそういう。ナタリアは明らかに自分を気にした様子だった。
そこへジェイドが口を開く。

「それより、城の中で気になる話を聞きました。導師イオンがケセドニアに向かったとか。イオン様は今は我々の元にいます。となると、これは…」
「シンクがケセドニアにいるのですね!ティア、テオドーロさんへのご報告はその後でよろしいかしら」
「え、ええ。もちろんよ」
「……じゃあケセドニアへ行ってみよう」

ルークとティアが良心を痛ませながら歩いて行く。
その後を追うナタリアにさすがのアニスもジェイドに引いてしまう。

「……大佐ってホントに嘘が上手ですよね。しれっとしてますもん」
「いえいえ。心苦しくて仕方ありません」

そう嘯くジェイドにアニスは一生敵わないと思った。


ケセドニアにつくと、人だかりができている。
ナタリアがいち早くそれに気付いて、そちらに向かうとシンクの姿が本当にあった。
嘘から出た真なのか本当にジェイドが知っていたのかルークたちは測りかねる。

「シンク!ローレライ教団は預言の詠み上げを中断してるのよ!!その人たちをどうする気!?」
「とんだ邪魔が入ったね…。そうだ、アニス。アリエッタがどうなったか知りたい?」

その言葉にイオンとアニスの顔が強張る。シンクはそれを見て取ると、口を歪めた。

「アリエッタはザレッホ火山に身を投じたよ。ボクたちレプリカがそこで廃棄されたようにね。ははは!お笑い草だろ!」
「おまえ!!」

ルークがシンクを睨みつけると、シンクは離れて行った人たちを見て、侮蔑する。

「まあいいさ。どうせ、研究施設が壊れてるからどうしようもない。ヴァンも怒らないだろう」
「どういうことですか?」

ジェイドがシンクに訊ねるが、シンクはその場を去っていく。
表情を暗くした二人にナタリアは元気づけるように言う。

「アニス、イオン。悪いのはシンクですわ。あなたたちが悪いわけではありませんもの」
「…」

それでも目を伏せたイオンにナタリアは心配顔をする。するとジェイドが声をかけた。

「ナタリア。すみませんが二人を連れて気晴らしにバザーにでも行って下さい。私たちはシンクに気をつけるようアスターに伝えておきます」
「わかりましたわ。二人とも参りましょう」

アニスはむすっとした顔をジェイドに向け、だしにされて怒ってるなとルークはアニスに同情する。
そして報告がてら乳母から話を聞くと乳母はラルゴがナタリアの父だと認めた。
ルークは本人に何と言っていいのか分からなくなった。
取り敢えず今はユリアシティに向かうということで仲間たちは納得し、ユリアシティに向かう。

ユリアシティでテオドーロに事情を説明すると、以前白煙が上がっていたものが判明したとルークたちに言った。
あれは何かの島であり、爆破された為に白煙が上がったのだとテオドーロは説明する。

「それは何かの研究施設なのですか?」
「それをあなた方に調べて頂きたいのです」

テオドーロにそう頼まれて、ルークたちはその徘徊する島の位置を指定された地図を渡された。
どうやら周期的に回っているらしく、今ユリアシティの近くまで流れてきているらしい。
そこで仲間たちは所々爆破で壊れた建物を歩いて行き、奥に行くと元は音機関だと分かるものがあった。

「これは…音機関…?」
「ですが壊れていてもう使い物にはなりませんね。莫大な経費が掛ったでしょうに」

ルークの言葉にジェイドが肯定し、見解を述べた。
ルークは注意深く辺りを見回すと、壊れた音機関ばかりごろごろと転がっている。

「それを壊したのはお前のたちの仲間だ」
「…教官!」

ティアが背後にリグレットが降り立った。そして、リグレットの言葉にルークは目を見開く。

「まさかガイがこうしたっていうのか!?」
「おまえは奴から何も話を聞いていないのか」
「どういうことか説明して頂きますよ」

ジェイドが槍を右手から出現させる。それを見たリグレットはふっと笑みを浮かべた。

「何も知らずにこの島へやって来たのか…。しかしこの島は見ての通りもう何もない」
「この壊れた音機関をどう説明しますの?」

何かあったはずだと問い詰めるナタリアにリグレットは背を向ける。

「それもどうせ壊れていて使えない。だから我らはここを捨てたのだ」
「捨てた?それはどういう意味なんですか、教官!」

ティアが眉を顰めると、リグレットは魔物に乗った。

「ティア。あなたにもいずれ分かるわ。そんなことをしても無意味だと、あのホド出身の男に伝えなさい」

リグレットはそれだけ言うと去っていく。
残されたルークたちはその男というのに一人しか心当たりがない。
アニスが瓦礫の山となった建物を見回す。

「ガイが…この島を壊した…?でもなんで?」
「恐らく、ガイはヴァンの計画を邪魔しているのでしょう」
「だったら、ガイは俺たちの…」

ルークはそこまで言いかけて、言葉を噤んだ。
アニスやナタリアがガイのやったことを忘れたのかと言わんばかりにルークを睨んでいる。
ルークもそれが分かるから黙るしかないのだが、やはり抑えきれない。

「…でも、ガイがヴァン師匠の計画を阻止してるってことは俺たちと同じ考えを持ってるってことだろ」
「それはそうだけど、ガイってヴァンよりも不透明じゃん。たった一人でこんなこと出来ちゃうんだよ?」
「ヴァンよりは厄介ではないと思っていましたが、これをマルクトやキムラスカにもしもやられたらひとたまりもありません。まあ、一人の力では高が知れていますが、あのリグレットたちを出し抜いたんです、注意が必要でしょう」

ジェイドの言葉は尤もだが、ルークはむっとしながらそれを聞いていた。
そして目を逸らす。

「…ガイは危険なんだろ。それは分かってるよ」
「なら、なぜあんな方を仲間にしようと思いますの?」

ティアにあんなことをしようとした方なのに、とナタリアは非難するようにルークを見た。

「だっていつかは話さなきゃいけないだろ。いつまでも逃げてたら駄目なんだ」
「それは少なくとも今ではないわ。少しでも危険だと思える行動は慎みましょう」

ティアに言われて、さすがにルークも黙った。ティアがガイの一番の被害者なのだ。
同じホド出身だというのに、なぜこんな仕打ちをするのだろうかとルークはずっと考えてきたのだがそれはガイに訊ねるしかない。

そうしてルークたちはガイの情報を得たということでグランコクマに向かった。
フリングスの時と同様不可解なガイの動きにピオニーは悩んだ様子だったが、突如声が聞こえる。

「聞け!預言を忘れし愚かな人類よ」
「モースの声!」

アニスはその声に目を見開き、ルークは怪訝な顔をする。

「なんだ?どこから聞こえるんだ?」
「わかりません。空……のようですが。まさか……」
「わが名は申請ローレライ教団の導師モースである。ひゃは、ひゃははははっ!今や世界は魔界に飲まれ、滅亡を迎えようとしている。それは何故か!キムラスカとマルクトの両国が、始祖ユリアの預言をないがしろにしたためだ」

がんがんと頭に響くその声は誰にでも届いているようだった。

「両国は偽りのユリアの使徒に騙され、預言を無視するという暴挙に出た。我々新生ローレライ教団は中央大海に、かつてのホド島奪取―栄光の大地エルドラントを建造する。ここを中心に、今一度世界を預言通りに進めるのだ。ひゃははははっ!そして我々は、預言をないがしろにするキムラスカ、マルクト両国に対し、食材と降伏を要求する。これが……う、う、受け入れられぬ場合は、ひゃは……げふっ、武力行使も……やむを得ない……!いずれ改めで新生ローラらい教団から使者を送る。両国の誠意ある返答を期待する。ぞ、ぞじで両国民たちよ。そなたらの王が預言を否定した時には、反旗を翻すのだ!正義わユリアの預言ど共にある!ひゃははははははっ!」

モースの声が止まったのを確認すると、ジェイドは呟いた。

「……モースの精神汚染は始まっているようですね」
「精神汚染?」

ルークが首を傾げると、ティアが言う。

「モースは第七音素の素養がないのに、体内にそれを取り込んでしまった」
「今モースの意識は、素養のない第七音素のために拒絶反応を起こしている。簡単に言うと理性が失われつつあるんですよ」

しかし新生ローレライ教団などという馬鹿げたものを創ったのは、あの男の意志で、妄執だとナタリアは非難する。
それにピオニーは対抗策を講じるべく、ルークたちに言う。

「今は無いそのエルドラントとやらだが、いずれ出来れば我々に多大な被害が出るだろう。ここは力を合わせるべきだ」
「ええ、その通りですわ」

早速ピオニーはエルドラントが出た時の為に地上はマルクトで固め、キムラスカには空のことを頼んだ。
ダアトのことはイオンがいるためすぐに、ルークたちはキムラスカに向かった。



あとがき
テオドーロに調べてきてほしいと言われたのに連絡しにいってないみたいになってますけど、何気にちゃんと寄ってからグランコクマに連絡しに行っています。
ただ入れるの忘れてた訳じゃありませんから(…)。気になったら加えますね。
あとなんで一々ガイを発見しただけで連絡しに行くのかというのは、ガイを見たら連絡するようにとピオニーの命令でジェイドは言われているからです。
ピオニーはガイのことをどう考えているかなんてまるで分かってません。それでいいのかと自分に問いかけながら話を書いています。



2011/04/24