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殯の宮
グランコクマにルークたちが到着すると、軍部の方でゼーゼマンとノルドハイムがエルドラントのことで話し合う。 「待っていたぞ。エルドラントはプラネットストームという鎧を失った」 「キムラスカ、マルクト連合軍はプラネットストーム停止と同時に出兵準備に入った。貴公らに助力するためだ」 ゼーゼマンとノルドハイムの言葉を受けて、ルークは感謝する。 「ありがとうございます。でも、まだエルドラントにはあの強力な対空砲火があります。あれをくぐり抜けないと……」 「ふむ。エルドラントの対空砲火には、発射から次の充填まで約十五秒の時間がかかる」 アルビオールでグランコクマに行く前に一度見たエルドラントには対空砲火が設置されていた。 遠くだったから良かったものの、ルークたちは威嚇射撃のようなものを受けたのだ。 「その時間で砲撃を予測して回避しつつ、接近……。兄なら可能だとは思いますが……」 「アッシュを捜してギンジさんに交代して貰いましょうか?」 ジェイドが不安げに口にしたノエルを気遣ってそう訊ねる。するとノエルは凛とした目を向けた。 「……いえ。やらせて下さい。アルビオール二号機の操縦士は私です。私も兄と同じ訓練を受けてきました。大丈夫。やります」 「頼むよ」 ルークがノエルにそういい、ルークは仲間たちに向き直った。 「なぁみんな。本当にエルドラントへいっていいのか?ナタリアはキムラスカの王位継承者。ジェイドも本当なら軍属としてマルクトの防衛をするべきだしそれに……」 「今更、何をいっていますの?ここまで来て抜けられるわけがありませんわ」 ルークの言葉を遮り、強い口調でナタリアが言った。 「私は兄さんの……ヴァンのしたことに決着をつけなくてはいけないもの」 「イオン様に、最後まで見届けなさいって叱られちゃいますよ」 「私は陛下の命令がありますから。それに一般兵を派遣するとしても隊長は必要でしょうし」 「……うん。わかった。ありがとうみんな」 ルークは仲間の気持ちを受け取り、胸が熱くなる。 そしてジェイドはゼーゼマンに目を向けた。 「ゼーゼマン参謀総長。我々の突入に合わせて援護射撃願えますか?我々はエルドラント内部で対空砲火を無力化し、直接ヴァンの元に向かいます」 「よかろう。ただし優先するのはヴァン討伐じゃ。対空砲火を無力化したところで我々には空を飛ぶ術はない」 「わかりました」 ジェイドはそれに頷き、それを聞いていたルークが拳を自分の手のひらにあてる。 「よし。あとはアッシュを見つけてローレライの鍵を完成させるだけだな」 「連合軍はケセドニアでお前たちの到着を待っている。頼むぞ」 ルークたちは早速ケセドニアに向かおうとグランコクマの門口に向かう。 するとアッシュが門口からこちらに向かって歩いてくるのが見えた。 「……アッシュ……!」 「……プラネットストームが止まったようだな」 ナタリアがアッシュの姿に僅かに顔を明るくした。ルークはアッシュの姿にほっと息をつく。 「よかった!そのことをおまえに伝えようと思ってたとこだったんだ!」 「いや、すぐにわかった。だから俺はおまえに……」 アッシュの様子は明らかにおかしかった。 いつもならもっと厳つい顔をしているのに今は前のような猛々しい様子も感じられない。 しかしルークはそれに気付かず、アッシュの手のひらに宝珠を乗せた。 「? なんだこれは……」 「前に言っただろ。ローレライを解放できるのは被験者のおまえだけだって」 アッシュは黙ってそれを見つめる。ルークはそれにさえ気付かないで、一方的に話を続けた。 「俺はみんなと一緒に全力でおまえを師匠の元へ連れて行く。おまえはローレライを……」 「………ろう」 「……え?」 アッシュが何か言ったのが聞こえ、ルークは聞き返した。 何か重要な事だったのだろうかとルークが思っていると、アッシュは激昂する。 「馬鹿野郎!!誰がそんなことを頼んだ!」 「何を怒ってるんだよ。一緒に師匠を止められないっていうのか?俺がレプリカってことがそんなに……」 「うるせぇっ!大体いつまで師匠なんて言ってるんじゃねぇっ!」 「……アッシュ」 ルークがアッシュの言葉に狼狽える。アッシュはますます声を張り上げた。 「しかもこの期に及んで、まだ止めるだぁ?いつまでもそんなことを言ってる奴に、何が出来る!おまえ甘過ぎなんだよ!あの人は……本気でレプリカの世界を作ろうとしてるんだ。それが正しいと思ってる。確信犯なんだよ。俺がバカだった。もしかしたら……こんなレプリカ野郎でも協力すれば奴を倒す力になるかもしれねぇって。おまえは俺だ!そのおまえが自分自身をお取ってるって認めてどうするんだ!俺と同じだろう!どうして戦って勝ち取ろうとしない!どうして自分の方が優れているって言えない!どうしてそんなに卑屈なんだ!」 「違う!そんなつもりじゃない。第一、俺はおまえとは違うだろ」 ルークは怒鳴ったアッシュを真っすぐ見つめた。その言葉にアッシュは衝撃を受けた。 先程の威勢は消え、ただ呆然とルークに言うしかできない。 「……な、何……」 「俺はおまえのレプリカだ。でも俺は……ここにいる俺はおまえとは違うんだ。考え方も記憶も生き方も」 ルークは口にしてそうだと実感し始める。 自分はきっと最初からこうやってアッシュに言ってやりたかったんだとすら思えた。 それほど心の中は穏やかで、静かだ。 「……ふざけるな!劣化レプリカ崩れが!俺は認めねぇぞ!」 「おまえが認めようと認めまいと関係ない。俺はおまえの付属品でも代替え品でもない」 ルークがその言葉を言い終えると同時にアッシュは手にしたローレライの宝珠をルークに向かって投げた。 ルークはそれをなんとか受け止めるが、アッシュを睨む。 「アッシュ!何をする……」 「おもしれぇ!ならばはっきりさせようじゃねぇか!おまえが所詮はただの俺のパチモンだってな!」 ルークの声を遮り、アッシュははっきりと言った。ルークはそれに顔を顰める。 「アッシュ、俺はおまえと戦うつもりはない」 「うるせぇっ!偉そうに啖呵を切っておいて逃げるつもりか?おまえはおまえなんだろう?それを証明して見せろ!でなけりゃ俺はおまえを認めない!認めないからなっ!」 アッシュは背を向け、ナタリアはその背に言葉を投げかける。 「アッシュ!待ちなさい!今のあなたは言ってることがめちゃくちゃですわ!」 「うるせぇっ!」 ナタリアの言葉ですらアッシュには届かない。ナタリアの大きな瞳が揺れた。 「アッシュ……」 「待てよ、ナタリアに八つ当たりするな。俺は……」 ルークがナタリアを庇い、アッシュはルーク視線を向けた。その目は憎悪に燃えている。 「あいつ――ヴァンの弟子は俺だ。俺だけだ!てめぇはただの偽物なんだよ」 「アッシュ!なんてことを!」 ナタリアはアッシュを非難するが、アッシュは続ける。 「俺はあいつを尊敬してたんだ。預言を否定したあいつの理想を俺も信じたかった。俺の超振動を利用したいだけだってことはわかっていたが、それでもしいいと思ったんだ。あいつが人間全部をレプリカにするなんて、馬鹿なことを言いださなけりゃ……。あいつの弟子であり続けたいって……」 「アッシュ、おまえ……」 「エルドラントに来い!師匠を倒すのは弟子の役目だ。どちらが本当の弟子なのか、あの場所で決着をつける」 アッシュはそれだけ言うと、立ち去ってしまった。 ずっとそちらを見つめるルークに仲間が少し近寄るとルークは口を開く。 「あいつがうらやましいよ。あいつは……いつだって師匠に認められていた。おれだって、認められたかった。弟子でありたいって思ってたんだから……」 ルークは確かにそう願ったことがある。しかしそれは叶わないと知って、諦めたのだ。 そしてそれは、あの金髪の青年も入る。 あの日以来、すっかり顔を見ない彼はヴァンとの戦いが終われば、いつかルークの前に姿を現す。 それは絶望を与える為に。 ルークたちは当初の目的であるケセドニアに到着した。 ケセドニアはもう日が沈みかけており、ジェイドが仲間たちに告げる。 「作戦決行は明日。マルクト・キムラスカ連合軍と合流した後になります」 「っていうことは、今日一日、時間がありますよね?」 「ええ。出兵前の兵士には24時間の自由行動が与えられますからね。その間は暇があります」 「じゃあ私たちも自由行動しようよー!」 アニスが手を挙げて、ジェイドにそういった。ジェイドはそれに肩を竦めて見せる。 「構いませんが、ケセドニア付近からあまり離れないで下さいよ」 「は~い。わかってまーすv ナタリア行こう!」 アニスは返事をすると、ナタリアを連れてどこかに行く。 それを見送っていたルークだったが、いつの間にかジェイドも姿を忽然と消していた。 ティアが残されていて、ルークはティアに目を向ける。 「おまえはどこかに行かないのか?」 「私は……別に……。あなたは……?」 逆に訊ねられて、ルークは悩む。 「ケセドニアって砂漠の街だからなぁ……。それに明日決戦だって言われても、なんだかまだ実感がないし……」 「なら、お二人とも私に付き合っていただけませんか?」 ノエルがルークたちにそう声を掛けてくる。振り返った二人に、足元でミュウが跳ねた。 「ミュウも行くですの」 「俺、一人で考えたいことがあるんだ。ノエル。ミュウとティアをよろしくな」 ルークはノエルにそういうとさっさと歩いて行ってしまう。 一方ノエルはそんな反応を返されるとは思ってなくて戸惑った。 それをこっそり隠れて見ていたアニスはちっと舌打ちし、ナタリアも残念そうに嘆息する。 「お子様にはまだ早かったですかねえ」 「た、大佐!?どこへ行ってらしたんですか?」 突如ティアの背後に立ったジェイドにティアは身構えた。 ジェイドはさっきからいましたよ、とティアに声をかけティアは当惑する。 「ティアさん、ノエルさん。どこに行くですの?」 何も知らないミュウがぴょんぴょんと楽しそうに地面を跳ねれば、ティアはミュウを抱き上げた。 「ノエル。さあ、行きましょう。ミュウもこう言ってるもの」 「え!?…ああ、そうですね。行きましょう」 声をかけたことと、ティアとミュウを連れていくことになったことをノエルは漸く思い出した。 アニスはノエルどんまい、という視線を送ってその場を後にする。 アニスはなんとなく酒場に入って行ったジェイドの姿が気になってその中に入っていく。 最初は何気ない世話話をしていたが、アニスはつい訊ねた。 「大佐は、ヴァン総長を倒したらどうするんですか?」 「軍人ですから。また軍属としての生活に戻りますよ。ただ……」 ジェイドは黙り、目を伏せる。アニスはその顔を見上げた。 「ただ、なんですか?」 「おかしいですね。私は帰ったら改めてフォミクリーの研究を再開したいと思っているんです。レプリカという存在を代替え品ではない何かに昇華する為に」 「……うん。是非それやって下さい」 アニスが真剣な声でジェイドに言えば、ジェイドはそろそろ宿に戻って下さい、と声をかける。 アニスは大佐も飲むんでしょう、と言ったがジェイドは聞かなかった。 それにぶーぶーとアニスは文句を垂れながらも、宿に戻る。 ナタリアは外でずっとアッシュを待っていた。シェリダンで前に一緒に朝日を見たような感覚がナタリアにはあったのだ。 しかしアッシュは一向に現れず、日は海へと沈んでいく。 ナタリアは後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。 ティアはミュウと一緒にアルビオールで夜空を飛び、最後はエルドラントをバッグに一緒にその眺めを楽しんだ。 ノエルは一人、これで本当にいいのかと何度としれないくらい頭を抱えた。 そしてルークは皆が寝静まった夜に、ガイが現れないか窓辺に立つ。 夕日が沈むぎりぎりまで街の隅々とまでは行かないが、街を捜したがガイの姿はなかった。 ガイは一向に姿を現さず、やはりここで待っても駄目かとルークは項垂れる。 最後にせめて仲間だけでもとガイに言おうと思ったのだ。 同郷であるティアに確実な死を与えた彼にそもそもそんなことを頼んでも無駄なのだろうが、ルークは気付いて自嘲する。 でも夜に会うあのガイなら、ティアのことを何とかしてくれるのではないかという期待がルークにはあった。 夜のガイは本当にびっくりするくらい、優しい。憎い自分にも気兼ねなく声をかけ、本気で心配してくれるのだ。 いつの間にか、ルークの頬に涙が伝っていた。けれど、ルークは気付かずに夜空に浮かんだ大きな満月を見つめた。 作戦決行の当日、ルークたちは事前に打ち合わせをするためにゴールドバーグやノルドハイムのいる所定の場所に向かった。 ゴールドバーグはルークたちを見るなり早速説明をする。 「作戦決行は本日正午だ。我々は選管と陸艦で中央大海とイスパニア半島の所定の位置に着く」 「アルビオールの方が移動速度が速い。作戦開始の時間まではエルドラント下の中央大海に着水し、我々の到着を待ってくれ」 「わかりました」 ノルドハイムの言葉を受け、ルークは頷く。ジェイドが最終確認を仲間に行った。 「連合軍の到着後、時間になったら砲撃が始まります。その援護を受けて、我々は対空砲火が比較的薄い下方からエルドラントへ突入します」 「その後は、可能であれば対空施設を破壊してヴァンを目指すんですよねー」 「最終目的はローレライの解放。それでよろしいですわね」 アニスとナタリアがジェイドの言葉に加えた。そしてアニスはルークを見る。 「よし、ルーク。最後だし、ばっちり号令かけてよ」 「お、俺が?」 「だってもうあなたがリーダーのようなものよ」 戸惑うルークにティアが後押しする。ルークは仲間たちの顔をそれぞれ見て、頷いた。 「わかった。みんな、必ず俺たちは世界を守るぞ!」 ルークの号令を聞いて、仲間たちはそれぞれ応じる。 次にルークたちはアルビオールに乗り込んだ。 アルビオールは先に海上で待機しているとエルドラントがこちらにゆっくりと向かってくるのが見える。 ルークたちは最初はなんだとそちらに目を見張っていたものだったが、大きなそれが近づくとアルビオールに警告音が鳴り響いた。 ノエルはアルビオールを急発進させ、空に舞い上がる。 するとエルドラントがタタル渓谷の近くの海岸沿い沈むのが見えた。 本当はアルビオールを潰すつもりだったのだろうが、あの鈍さでは不可能に近い。 なぜヴァンがそんな無策に近いことをやったのか、ジェイドは気になったが上空には対空砲火が出され、ノエルはアルビオールをうまく操りそれを掻い潜っている。とてもじゃないがそんなことに構っていられなかった。 援軍はまだ到着していない。ノエルは必死に避けるがなかなか厳しい様子だ。 「……くっ!エルドラントが落下しても対空砲火は生きているようです」 「……いえ。待って下さい。エルドラントの左翼……といっていいのか、とにかく左の平底の部分、対空砲火が死んでいます!」 ジェイドの言葉にノエルは声を張る。 「了解!そこに着陸します!」 ノエルが対空砲火を避け、強引にエルドラントへの着陸に成功する。 ルークたちがアルビオールを出ると、外にはもう一機アルビオールがあった。 黒い塗料で塗られたそれはアルビオール三号機だ。 「あれ、アストンさんのアルビオールだろ!?」 「アッシュ……!」 ナタリアはアッシュが三号機を乗り回している話を聞いていた。 そのためすぐにそちらに駆け寄ろうとすると、三号機から誰かが出てくる。 額から深紅の血を流し、ギンジがふらふらとした様子で、地面に手をついた。 倒れたギンジを見て、ノエルがギンジの体を支える。 「お兄さん!?あの対空砲火をくぐり抜けたの!」 「危険だがそうするよりなかった。迎撃装置の資格から飛び込んでアルビオールの船体を装置にぶつけたんだ。それしかあの対空砲火を無効化する方法がなかった」 苦く語るギンジに、ジェイドは呟いた。 「無茶をする……」 「おい、大丈夫か」 ルークがギンジに声をかければ、彼はやっとルークに気がついたようでそちらに顔を向ける。 「……ええ。おいらは平気です。エルドラント落下でちょっと体を打っただけですから」 「兄のことは私にお任せ下さい。皆さんはエルドラントへ」 ノエルがルークに向かってそう声をかけ、ジェイドが言う。 「ルーク。行きましょう」 「……わかった。ノエルありがとう。みんな、行くぞ!」 ルークは白亜の建物に入っていく。これで最後だ。 そしてアッシュに次に会えば、戦闘は避けられない。 ルークはそう感じながらも、エルドラントの内部へ進行して行く。 30話以内に終わらせる予定です。 最後とか文章量が長くなるかもしれません。今まで以上に。きりのいい数字が好きなんですすいません! 後、ティアとミュウの空中飛行は笑うところです。 ルークのはシリアスなつもりで書きました。 最後といっているのはガイと戦うという意味ではなく、ヴァンとの戦いを意味しています。 そんな三度も復活したらガイが黙ってませんよ(…)。 殯の宮(あらきのみや)と読みます。貴人の死体を置く宮のことです。 ヴァンはほら、一回死にかけてるから!貴人かどうかは別として!(…) 相変わらずな目茶苦茶なタイトルでサーセン。タイトルに意味を求めたら負けだと思ってる…!(…) |